研究会「紛争解決の理論と実践」

趣旨
「紛争解決の理論と実践(Theory and Practice of Conflict Resolution: TPCR)」研究会は、現代の世界でのさまざまな武力紛争を調査し、紛争解決の理論と実践の現状を分析・評価し、可能な限り政策的含意のある視座を提示していきます。ヨーロッパ、中東、アジアなどで起こっている武力紛争を対象とする地域横断的な視点を導入します。ユーロ大西洋安全保障とインド太平洋安全保障の関連性を考慮しながら、現代世界の構造的な緊張を検証する国際社会全体を見渡す構造的な視点も発展させていきます。TPCR研究会は、紛争解決と平和構築に貢献する新しい解決策を提案することを目指していきます。
この研究会における紛争解決の理論に関する議論には、紛争分析、仲介、国家建設、平和構築などを含めていきます。これらの分野はいずれも、冷戦終結後に大幅に発展しました。その発展は、軍事介入、国際平和活動、開発、人道支援などの紛争解決に関する政策的実行の進展と同時に起こりました。しかし21世紀になって始まった「グローバルな対テロ戦争」などの新しい現象は、武力紛争の様相を変えました。ロシア・ウクライナ戦争やガザ危機を含む現在進行中の武力紛争は、既存の紛争解決理論に新たな視座を加えることの必要性を示しています。近年主流となっている「国際的な国内紛争」型の複雑な武力紛争を分析し、対応策を検討していくためには、既存の仕組みを超えた議論が喚起されなければなりません。このTPCR研究会では、どのような新しい理論的枠組みが、現代の武力紛争の複雑な現実をより適切に捉えていけるのかを検討していきます。
国際平和活動によって代表される紛争解決の実践は、急激な変化を遂げています。国連の平和維持活動は重要な手段であり続けていますが、予算と人員が大幅に削減され、21世紀初頭に持っていた重要性を失っています。21世紀の冒頭で教科書的に信奉された国際平和活動の方法は、時代遅れなものとなっています。その一方で、過去30年間で、(準)地域組織や有志連合などを介在させた様々な非国連の平和活動が頻繁に設立されてきました。柔軟なパートナーシップの組み合わせを通じて、紛争解決の活動を国際的な安全保障措置と結びつける必要性が高まっています。TPCR研究グループは、世界の変化する現実に対応した新しい国際平和活動の政策論を見出すことも目指しています。
研究グループの最初の主要な焦点は、ウクライナの長期的な再建計画を含む、紛争解決の見通しと可能性にあります。構造的な視点として、インド太平洋とユーロ大西洋の間の関連性を理論化し、これらの地域での新しい紛争解決の政策を探求します。研究グループは、さらに他のアフリカ、中東、南アジア、東アジアの事例について議論するために、少なくとも3年間活動します。

活動
1.     定期的なマンスリー会合:TPCR研究会は、定期的な月例会合を開催しています。現時点では、主要な定期メンバーがオンラインで参加し、ウクライナに関連する問題に焦点を当てた議論をしています。
議論の結果は、公開会議やROLESのコメント、ROLESレビューなどで発表します。
2.     不定期のトピカル会合:不定期に開催されるトピカル会合を通じて、現代の武力紛争や紛争解決政策の事例について議論します。TPCR研究会は、現代世界の事象の変化に応じて、その時々で重要なテーマを決め、内容にそった参加者とともに、議論を深めていきます。議論の結果は、公開会議やROLESのコメント、ROLESレビューなどで発表します。
3.     海外でのアドホック会合:海外の機関とのパートナーシップを活用して、海外で会合を催します。TPCR研究会では、特に自由で開かれたインド太平洋(FOIP)と現代世界の構造的な緊張について焦点をあて、同じ関心を持つ海外機関との間で、紛争解決に関連する議論を行います。議論の結果は、公開会議やROLESのコメント、ROLESレビューなどで発表します。

論点
1. ロシア・ウクライナ戦争の終結の条件は何か。TPCR研究会では、W・ザートマン「成熟」理論などを検討して終結のイメージを模索しながら、ウクライナにとっての紛争解決の条件を理論と政策の両面から検討する。より具体的には、「抑止」の整備の重要性に注目し、それに対して日本などの支援国が提供できる「平和の保証」の仕組みなどに関する政策課題を精査する。
2. 現代世界で多発している武力紛争の多くが、「国際的な内戦」と呼ぶべき国際紛争と国内紛争の要素が混在した戦争である。典型例がウクライナやガザにおける戦争だが、その他の武力紛争の事例を見ても、国際紛争と国内紛争のどちらかの性格だけを持っている戦争などはほとんど存在しない。両者の人工的な区別に依拠した紛争解決の理論は、21世紀の現実に対応できない。この問題意識を持ちながら、中東からアフリカにかけての武力紛争多発地帯の武力紛争の各事例を分析していく。それぞれの事例における日本の平和貢献の政策などを通じた関与のあり方も、大きな政策課題になるだろう。
3. 現代世界の構造的な対立の構造は、現在の個々の武力紛争に影響を与えているだけでなく、将来の武力紛争の潜在的な原因として存在している。米中の超大国間の競争関係、G7に代表される工業先進国とBRICSに代表される新興国の間の確執、リベラルな国際秩序を標榜する欧米諸国とグローバルサウスが主導する国際秩序の刷新を追求する非欧米諸国の間の構造的対立は、今後さらに深刻化していくことが予測される。TPCR研究会は、日本外交が掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の視点を重視しながら、現代世界の構造的対立を分析しつつ、望ましい外交政策の方向性を模索していく。

研究会メンバー
正規メンバー | 所属・肩書き
篠田英朗(座長) | 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授・東京大学(ROLES)客員上級研究員
吉崎知典 | 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授
Fedorchenko-Kutuyev Pavlo | Professor of Sociology and Sociology Department Chair, Igor Sikorsky Kyiv Polytechnic Institute (KPI)
Anna Mykolayivna Ishchenko | Senior Lecturer and Deputy Dean of FSP for international activities, Igor Sikorsky Kyiv Polytechnic Institute (KPI)
Olena Akimova Kasatnika | Docent and Acting Dean of the Faculty of Sociology and Law, Igor Sikorsky Kyiv Polytechnic Institute (KPI)
Iurii Perga | Lecturer of the Historical Department, Igor Sikorsky Kyiv Polytechnic Institute (KPI)
Philip Shetler-Jones | Senior Research Fellow for Indo-Pacific Security, Royal United Services Institute (RUSI)
・連携メンバー |  所属・肩書き
岡部芳彦 | 神戸学院大学経済学部教授、日本ウクライナ研究会会長
東野篤子 | 筑波大学教授、日本ウクライナ研究会副会長
鶴岡路人 | 慶応大学政策研究学部准教授

・刊行物
ROLES COMMENTARY No.12 ユーリー・ペルガ「ロシア・ウクライナ戦争の政治的影響の評価」
ROLES COMMENTARY No.11 パブロ・フェルドルチェンコ - クトゥエフ/篠田英朗「ウクライナ戦争」という名称の問題性
ROLES Insights Number 2023-4:The Problematic Nature of the Naming of the "Ukraine War"
ROLES Insights Number 2023-03:”Shifting Trust: Ukrainian Sentiments Towards Social Institutions Before and During War”
ROLES Insights Number 2023-02:”Assessment of the Political Impact of the Russo-Ukraine War”

活動記録

構成メンバー

篠田英朗/Hideaki SHINODA

学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験などを持つ。国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)では、日本政府から派遣されて、投票所責任者として勤務した。ロンドン大学(LSE)で国際関係学Ph.D.を取得して、ロンドン大学およびキール大学で非常勤講師を務めた後、1999年より広島大学平和科学研究センター助手、2005年より助教授(07年に准教授の改称)及び同大学国際協力研究科を兼務。2013年4月より東京外国語大学総合国際学研究院教授。紛争後地域における平和構築活動について研究を進めている。ケンブリッジ大学ローターパクト国際法研究センターおよびコロンビア大学人権研究センターの客員研究員、国際刑事裁判所客員専門家を歴任。著書は、『Partnership Peace Operations: UN and Regional Organizations in Multiple Layers of International Security (Routledge, 2024)、『戦争の地政学』(講談社、2023年)、『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所、2022年)、『パートナーシップ国際平和活動:変動する国際社会と紛争解決』(勁草書房、2021年)、『紛争解決ってなんだろう』(ちくまプリマー、2021年)、『はじめての憲法』(ちくまプリマー、2019年)、『憲法学の病』(新潮新書、2019年)、『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書、2017年)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、2016年)<第18回読売・吉野作造賞>『国際紛争を読み解く五つの視座:現代世界の「戦争の構造」』(講談社、2015年)、『平和構築入門:その思想と方法を問う』(ちくま新書、2013年)、『「国家主権」という思想:国際立憲主義への軌跡』(勁草書房、2012年)<第34回サントリー学芸賞>、『国際社会の秩序』(東京大学出版会、2007年)、『平和構築と法の支配:国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、2003年)<朝日新聞社第3回大佛次郎論壇賞>(韓国語訳版2008年)、『Re-examining Sovereignty: From Classical Theory to the Global Age』(Macmillan, 2000[中国語訳版{商務印書館、2004年}])、『日の丸とボランティア:24歳のカンボジアPKO要員』(文芸春秋、1994年)。その他、『紛争と人間の安全保障:新しい平和構築のアプローチを求めて』(国際書院、2005年)(上杉勇司と共編)など、共著・論文多数。http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/

吉崎知典

専門分野は国際政治、ヨーロッパ、平和構築、戦略論、同盟、国連PKO、日本の安全保障等。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了。防衛庁防衛研究所助手、同主任研究官、防衛省防衛研究所理論研究部長、同特別研究官(政策シミュレーション)、同研究幹事を歴任した。2023年4月より現職。その間に英国ロンドン大学キングズ校客員研究員、米国ハドソン研究所客員研究員、筑波大学客員教授、神戸大学客員教授等を兼任。

Anna Mykolayivna Ishchenko

Iurii Perga

Olena Akimova

Fedorchenko-Kutuyev Pavlo

Philip Shetler-Jones

石本凌也/Ryoya ISHIMOTO, Ph.D.

特任研究員
専門は国際政治学(特にアメリカ外交史、国際安全保障論、日米関係史)
サントリー文化財団鳥井フェローなどを歴任し、同志社大学大学院法学研究科を修了。博士(政治学)。2024年4月より現職。

【連携委員】鶴岡路人

2005年から2008年まで外務省在ベルギー日本大使館専門調査員として勤務。米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員を経て、2009年から2017年まで防衛省防衛研究所にて教官、主任研究官を歴任。その間、2012-13年に防衛省防衛政策局国際政策課部員、2013-14年に英王立防衛安全保障研究所(RUSI)訪問研究員。2017年より慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。

【連携委員】岡部芳彦

【連携委員】東野篤子

専門は国際関係論、欧州国際政治、EU東方拡大・対外関係

刊行物

活動記録
メンバー
刊行物

メンバー

篠田英朗/Hideaki SHINODA

学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験などを持つ。国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)では、日本政府から派遣されて、投票所責任者として勤務した。ロンドン大学(LSE)で国際関係学Ph.D.を取得して、ロンドン大学およびキール大学で非常勤講師を務めた後、1999年より広島大学平和科学研究センター助手、2005年より助教授(07年に准教授の改称)及び同大学国際協力研究科を兼務。2013年4月より東京外国語大学総合国際学研究院教授。紛争後地域における平和構築活動について研究を進めている。ケンブリッジ大学ローターパクト国際法研究センターおよびコロンビア大学人権研究センターの客員研究員、国際刑事裁判所客員専門家を歴任。著書は、『Partnership Peace Operations: UN and Regional Organizations in Multiple Layers of International Security (Routledge, 2024)、『戦争の地政学』(講談社、2023年)、『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所、2022年)、『パートナーシップ国際平和活動:変動する国際社会と紛争解決』(勁草書房、2021年)、『紛争解決ってなんだろう』(ちくまプリマー、2021年)、『はじめての憲法』(ちくまプリマー、2019年)、『憲法学の病』(新潮新書、2019年)、『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書、2017年)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、2016年)<第18回読売・吉野作造賞>『国際紛争を読み解く五つの視座:現代世界の「戦争の構造」』(講談社、2015年)、『平和構築入門:その思想と方法を問う』(ちくま新書、2013年)、『「国家主権」という思想:国際立憲主義への軌跡』(勁草書房、2012年)<第34回サントリー学芸賞>、『国際社会の秩序』(東京大学出版会、2007年)、『平和構築と法の支配:国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、2003年)<朝日新聞社第3回大佛次郎論壇賞>(韓国語訳版2008年)、『Re-examining Sovereignty: From Classical Theory to the Global Age』(Macmillan, 2000[中国語訳版{商務印書館、2004年}])、『日の丸とボランティア:24歳のカンボジアPKO要員』(文芸春秋、1994年)。その他、『紛争と人間の安全保障:新しい平和構築のアプローチを求めて』(国際書院、2005年)(上杉勇司と共編)など、共著・論文多数。http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/

吉崎知典

専門分野は国際政治、ヨーロッパ、平和構築、戦略論、同盟、国連PKO、日本の安全保障等。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了。防衛庁防衛研究所助手、同主任研究官、防衛省防衛研究所理論研究部長、同特別研究官(政策シミュレーション)、同研究幹事を歴任した。2023年4月より現職。その間に英国ロンドン大学キングズ校客員研究員、米国ハドソン研究所客員研究員、筑波大学客員教授、神戸大学客員教授等を兼任。

Anna Mykolayivna Ishchenko

Iurii Perga

Olena Akimova

Fedorchenko-Kutuyev Pavlo

Philip Shetler-Jones

石本凌也/Ryoya ISHIMOTO, Ph.D.

特任研究員
専門は国際政治学(特にアメリカ外交史、国際安全保障論、日米関係史)
サントリー文化財団鳥井フェローなどを歴任し、同志社大学大学院法学研究科を修了。博士(政治学)。2024年4月より現職。

【連携委員】鶴岡路人

2005年から2008年まで外務省在ベルギー日本大使館専門調査員として勤務。米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員を経て、2009年から2017年まで防衛省防衛研究所にて教官、主任研究官を歴任。その間、2012-13年に防衛省防衛政策局国際政策課部員、2013-14年に英王立防衛安全保障研究所(RUSI)訪問研究員。2017年より慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。

【連携委員】岡部芳彦

【連携委員】東野篤子

専門は国際関係論、欧州国際政治、EU東方拡大・対外関係