東大先端研創発戦略研究オープンラボ(ROLES)設立のご挨拶

ROLES代表 池内恵

東京大学先端科学技術研究センター(先端研・RCAST)では、グローバルセキュリティ・宗教分野(池内恵教授)が主導し、2020年度に、先端研・創発戦略研究オープンラボ(RCAST Open Laboratory for Emergence Strategies)を開設いたしました。

先端研・創発戦略研究オープンラボ、略称は、英語名称の頭文字を取って「ROLES」。

ROLESとは、大学が真の意味でのシンクタンクとして社会で役割を発揮するための、舞台設定です。

そもそも大学とは、元来が、本来の意味でのシンクタンクであるはずです。しかし現在の日本で、大学のシンクタンクとしての役割はそれほどよく見えていないのではないでしょうか。

ROLESは、東大の附置研究所である先端研の豊かなリソースを活用し、大学の社会の中での役割(Roles)を問い直し、本来の意味での「シンクタンク」として、そのあり方を再確認し、再定義します。

これは「オープンラボ」として設定しました。

「オープンラボ」とは、すなわち部局(大学用語で、「何々学部」や「何々研究科」あるいは「何々研究所」といった自律的な基本構成単位のことを指します)でもなく、学科や研究室でもなく、あるいは大学院の専攻でもありません。それらの諸単位やそれらに属す研究者が、研究上で自由に交差し、協力することのできる場です。

気分は一つのシンクタンク。ただし、きわめて風通しの良い、ほとんど壁もないような、平たい広い床、あるいは大きな作業机を用意した、そのようなイメージです。

人文社会系が中心ですから(理系との連携の可能性もありますが)、共通の実験施設などを設けることはあまりないでしょうが、普段は行政的・制度的理由で協力がしにくい研究者同士が、自由に交流し、情報を集め、ものを考えていく、そのための「場」を設定しました。

この「場」に、大学の外から、今現在の緊急な国際問題に密接に結びついたさまざまなプロジェクトを呼び込み、社会との接点と相互交流を、積極的に生み出していきます。

関係先は国内の官庁や企業はもちろん、諸外国の大学やシンクタンクを想定し、各国の政府機関や企業との関係も、積極的に作っていきます。

複数のプロジェクトが、十分に余裕のある大きな作業机の上で(ソーシャル・ディスタンス!)、お互いに邪魔にならないように、けれども必要な時や、有益な時には気軽に連携できるように、部局や大学全体の組織的意思決定、官庁や企業のしがらみやしきたりを最大限外した、緩やかな開放的な組織を、東大先端研内に設立しました。

ROLESという平場に集まってくる研究者たちが取り組むのは、「創発(Emergence)」です。

「創発を戦略的に研究する」とは、何かが発生すること、その何かが起こる瞬間を見届け、そこから生じる緊急事態(Emergency)を見落とさず、そこに現れる機会を見逃さず、つかみ取ること。ROLESをそのための場とします。

大学とは本来、そのような期待と不安に満ちた場であったはずです。

ROLESが実施するプロジェクトには、外交・安全保障調査研究事業費補助金(総合事業)に採択された「体制間競争の時代における日本の選択肢:国際秩序創発に積極的関与を行うための政策提言・情報発信とそれを支える長期シナリオプランニング」や、インペックスソリューションズ株式会社と共同で設立し運営する中東地域情勢研究会があります。

また、東京大学の学内では、総合文化研究科の「東京大学グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ (GSI)」の「キャラバン研究プロジェクト」に採択されたプロジェクト「中東国際政治における主要地域大国と域外大国の関係をめぐる実施調査と対話」によって、部局を横断してリソースを共有することで、より拡大した形で実施します。

その他、池内研に所属する研究者が科研費等で実施するプロジェクトも、次々にROLESといういわば「作業台」の上に乗り、相互に協力しながら、羽ばたいていきます。

これらのROLESに集うプロジェクトには、先端研のグローバルセキュリティ・宗教分野に属する研究者が、先端研内の文系・理系を横断し超越したさまざまな分野の研究室と共に、東大の学内の諸部局、例えば総合文化研究科、東洋文化研究所、人文社会系研究科、公共政策大学院、生産技術研究所などに所属する研究者・研究室と協力しながら、取り組んでいきます。

なお、ROLESに集まる外部資金、あるいは部局横断の予算によるプロジェクトでは、何よりも優先して「若手研究者の人件費」「研究推進を補助するための人件費」を計上し、持続的な研究態勢の構築と世代間継承のモデル化を計っています。

ROLESへの皆様のご注目、そして幅広い分野での参加とご協力を願って止みません。

2020年9月1日

池内恵

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研究所概要

代表

副代表

上級顧問

シニア・プログラム・コーディネーター

上級客員メンバー

川島真 Shin KAWASHIMA

東京大学大学院総合文化研究科教授
東アジア近代史 中国政治外交史

1998年に北海道大学法学部助教授に就任、2006年まで同大学にて勤務。2006年10月より東京大学総合文化研究科助教授に就任、准教授を経て、2015年より同大学教授に就任。加えて、中央大学(1997年-)、国際日本文化研究センター(2001年-2005年)、復旦大学(2016年-2017年)などで客員研究員、共同研究員を歴任。

稲見昌彦 Masahiko INAMI

東京大学先端科学技術研究センター教授(身体情報学分野・身体拡張工学)

【詳細は稲見研究室ウェブサイトを参照】

主要な研究課題:

感覚・知覚などの生理的知見、デバイス技術、情報技術などに基づき、新たな「人機一体」のシステムの構築

透明コックピット、ストップモーションゴーグル、前庭感覚電気刺激を用いたインタフェース、JINS MEME、超人スポーツなどの研究を通して人間の入出力を拡張するための研究

研究分野:
(1) 人間のシステム的理解
(2) 人間拡張工学
(3) 自在化技術
(4) エクスペリエンス工学、エンタテインメント工学

門内靖明 MONNAI, Yasuaki

東京大学先端科学技術研究センター准教授(身体情報学分野)
門内靖明准教授は、東京大学先端科学技術研究センターの身体情報学分野(稲見・門内研究室)で、身体内外の物理情報空間をつなぐ無線インターフェースに関する研究を行い、身体的な現象や体験を記録・共有できるようにすること、人の認識行動を支援することを目指している。電磁波や超音波などの波動現象は、エネルギーや情報を高い時間的・空間的分解能で非接触に伝送できる物理媒体であり、中でも門内准教授が取り組んでいるテラヘルツ波は電波と光の中間的な周波数・波長帯に位置している。門内准教授は、分布定数系の解析・設計・実装を核としてこれらの波動を横断的に援用することで、計測や通信などの諸問題に取り組んでいる。特定のノウハウに依存することなく、既存ノウハウの前提となる部分に疑問を投げかけて新たな研究を考案し、コンピュータを駆使して解析・設計し、実装・実験しながら研究を進めていくことが門内准教授の信条である。

事務アシスタント

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