「彼らは制度の抜け穴を知っていて(They beat the system)、入国後に出産して、支援を受ける。幼い子どもがいれば、支援対象になりやすくなることを知っている。それが彼らのやり方。でも、一定の収入があるアメリカ人は『稼ぎすぎている』と見なされ、どんな支援策の対象にもならない。デイゴと同じように、この不公平感がこの地域にたまってきた不満。怒っている人もいる。だからトランプに投票して、これ以上の移民が増えないようにしたい、というわけ」
ノマが指摘した「制度の抜け穴」。どの仕組みを指していたのか定かではなかったが、シンクタンクThe Migration Policy Instituteによると、The Special Supplemental Nutrition Program for Women, Infants, and Children (WIC)は、幼児や妊婦、産後の女性に栄養支援を提供するもので、滞在資格の中身に関わらず利用できる数少ない公的給付制度の一つだという[15]。
[1]過去のCNN出口調査と比べても、トランプが共和党候補として獲得したラティーノ票の割合(46%)は高い。1984年以降では40%を獲得した2004年のブッシュが最高だった。 [2]マイノリティー票における民主党優位が揺らぎ始めている様子は、ヒスパニック男性票に限らず、他の属性でも確認できる。同じスライドの黄色い矢印では、黒人男性でも、ヒスパニック女性でも、民主党の優位が縮んでいる。ヒスパニック女性票での民主党優位は、クリントンの44ポイントから、ハリスの22ポイントに半減した。 [3] The Washington Post, Emily Guskin, Chris Alcantara and Janice Kai Chen, “Exit polls from the 2024 presidential election” December 2, 2024 [4] The Brookings Institution, Gabriel R. Sanchez, “A deep dive into the 2024 Latino male electorate” November 22, 2024 [5]The 2024 American Electorate Voter Poll. ヒスパニック男性のトランプ投票の割合43%は、5ページの問い4。 [6]ピュー・リサーチ・センターによると、ヒスパニック系有権者の数は、2024年11月に3620万人に達すると予測されている。1430万人だった2000年以来153%の増加。ヒスパニック系が全有権者に占める割合は14.7%(2024年11月予想)で過去最高。この割合は着実に増加中で、2000年は7.4%だった。ヒスパニック系有権者が多い州は、カリフォルニア州(約850万人)、テキサス州(650万人)、フロリダ州(350万人)、ニューヨーク州(220万人)、アリゾナ州(130万人)と続く。Key facts about Hispanic eligible voters in 2024. [7]これまでの「トランプ王国」報告は、『ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く』(岩波新書、2017年)、『記者ラストベルトに住む トランプ王国、冷めぬ熱狂』(朝日新聞出版、2018年)、『ルポ トランプ王国2 ラストベルト再訪』(岩波新書、2019年)、『アメリカ大統領選』(岩波新書、2020年)などにまとめた。2024年には「「トランプ王国」あれから8年 ラストベルト再訪の旅 第1部」東京大学先端研創発戦略研究オープンラボ(ROLES)第1~3部で大統領選前の現地の事情を伝えた。 [8]米紙ニューヨーク・タイムズによると、トランプはテキサス州の国境沿いにある14郡のうち12郡で勝利し、2016年の5郡から大幅に増やしたという。NYT, J. David GoodmanEdgar Sandoval and Robert Gebeloff, “‘An Earthquake’ Along the Border: Trump Flipped Hispanic South Texas,” Nov. 8, 2024. [9]同上 [10]デイゴとノマの取材の終盤に1940年の「アラモ鉄道事故(Alamo train wreck)」の話になった。移住労働者を乗せたトラックと鉄道が衝突した大事故で、トラックに乗っていたデイゴの母方の祖父母らが犠牲になった。母の両親に加え、9人きょうだいの17歳と16歳だった姉2人も死亡した。当時、農場労働者の多くがトラックで仕事場に通っていた。デイゴの母は当時6歳の末っ子だったので自宅に残っていた。テキサス州は広いが、驚いたことに、ノマの祖父も偶然、同じ事故の犠牲者だという。 [11]トランプは次のように演説した。“Every day I wake up determined to deliver a better life for the people all across this nation that have been ignored, neglected and abandoned. I have visited the laid-off factory workers, and the communities crushed by our horrible and unfair trade deals. These are the forgotten men and women of our country. People who work hard but no longer have a voice. I am your voice.” NYT, “ Transcript: Donald Trump at the G.O.P. Convention” [12]トランプは次のように演説した。“The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer. Everyone is listening to you now.” Trump White House Archives, The Inaugural Address (January 20, 2017) [13]米シンクタンク「外交問題評議会」によると、米議会は、2022年2月のウクライナ戦争開始以降、2024年4月までに支援関連の法案5本を可決し、予算総額は1750億ドル。大部分は軍事関連だが、難民支援や法執行機関、独立系ラジオ放送局など、幅広い内容を含む。これとは別に2024年、凍結されたロシア資産から得られる利息を原資として、ウクライナ政府に200億ドルの融資を提供した。 [14]取材拠点に使ったファストフード店の店員の一人は、トランプ政権がコロナ禍に現金給付したことから、トランプを「パパ」と呼んで、感謝の気持ちを筆者に語った(2025年2月)。初回のものだけでも、支援額は成人に1200ドル、子ども(17歳以下)に500ドル(所得制限あり)だった。Peter G. Peterson Foundation, ”What to Know About All Three Rounds of Coronavirus Stimulus Checks” [15] Valerie Lacarte, “Explainer: Immigrants and the Use of Public Benefits in the United States” (October 2024). 一般的に、難民を除けば、米国に居住する外国人は、連邦政府が資金提供する公的給付へのアクセスについて厳しい制約を受ける。これにはメディケイドやフードスタンプ(補足的栄養支援プログラム)、貧困家庭一時支援(TANF)といった主な支援プログラムが含まれる。これは特に、正規の滞在許可を持たない移民(unauthorized immigrants)に当てはまり、ごく限られた状況を除き、連邦政府が資金提供する全ての公的給付を受けることができない。グリーンカードの保持者のほとんどでさえ、連邦政府の給付を受ける資格を得るまでに5年間の待機期間が設けられているという。 [16]詳細は、ホックシールドの著作『壁の向こうの住人たち―アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(2018年、岩波書店)へ。 [17]本稿で紹介したのは「ディープストーリー」の一部で、続きがある。ホックシールドのインタビューは、金成隆一『ルポ トランプ王国2 ラストベルト再訪』(2019年、岩波書店)253-266頁に全文を収録。より詳しくはホックシールド『壁の向こうの住人たち』第9章へ。