コメンタリー

公開シンポジウム「外交・安全保障シンクタンクはどこへいく? ROLESの挑戦と日本の課題」(2)

東京大学先端科学技術研究センター創発戦略研究オープンラボ(ROLES)は2025年5月31日、オープンキャンパスに合わせて公開シンポジウム「外交・安全保障シンクタンクはどこへいく? ROLESの挑戦と日本の課題」を開催しました。その記録の続きです。
 
▼プレゼンテーション(発言順)
 池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授、ROLES代表
 松本太・一橋大学国際・公共政策大学院教授/前・駐イラク特命全権大使/前・日本国際問題研究所ネットワーク本部長
 鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授/地経学研究所(IOG)所長【オンライン登壇】
 山本文土・外務省総合外交政策局参事官(大使)
▼討論(発言順)
 小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター准教授、ROLES副代表
 中井遼・東京大学先端科学技術研究センター教授、ROLES執行幹部
(司会は国末憲人・東京大学先端科学技術研究センター特任教授・ROLES執行幹部)

(司会) では次に、オンラインで鈴木さんにお話をいただきます。
 
【鈴木一人】 ありがとうございます。地経学研究所の鈴木です。今日はそちらにうかがえずすみません。用務で広島に来ています。
今まさに松本大使がおっしゃったことを踏まえて、我々地経学研究所で今何をしているのかをご紹介します。ROLESの活動とはかなり違う角度、違う観点から進めていますので、論点にもあがってきた、例えば外縁の問題とか、人材育成の問題とか、政策提言とかについて、我々はどうやっているのかをお示ししたいと思っています。
まず、我々地経学研究所は、1952年につくられた国際文化会館と、15年前に国末さんの大先輩の船橋洋一さんが福島原発の事故をきっかけにつくった「アジア・パシフィック・イニシアティブ」とが合併した際に生まれました。国家間関係では、これまでのように単に軍事力や外交だけでなく、経済も重要な課題になってくるだろうという考えから、「地経学」という名前を冠したところに、このシンクタンクをつくる意図がありました。
今、ここに挙げているのが、我々が進めている主な研究領域です。
 
中国、経済安全保障、欧米、国際安全保障秩序、新興技術です。先ほど松本大使が経済安全保障や新興技術をどうするのかというお話をされましたが、一応我々はそこにも目を配ってカバーしようとしています。
運営体制という点では、やはりマネジメントが課題です。我々は事務局長を設定して、事務を専任に扱うスタッフ、広報、動画作成といったものにも力を入れようと人を配置し、それなりの体制を整えようとしています。
現在、専任のスタッフが8名います。
 
 
私も池内さんと同様に、本郷ですが,東京大学で教えているわけですが、このようにダブルハットをかぶっている者を含めて今27名で運営しています。これだけのリサーチスタッフを抱えながら、専任の人たちを増やしていくことで、いわゆるキャリアパスとしてのシンクタンクカーを可能にしていくことが、我々の目標です。
例えば、今ここに示している「CGO」です。我々は彼を「チーフ・ジオエコノミクス・オフィサー」と勝手に呼んでいますが、そういう人を育てていくのです。
 
 
先ほど、大学でシンクタンクを運営するとどうしても人を送り出してしまうという説明がありましたが、我々も研究者を育てて、まさにシンクタンクカーとしてキャリアをつくっていってもらおうと考えています。その先に、例えば大学に行くとか、コンサルに行くとか、そのようなキャリアはあってもいいと思います。我々にとっては、シンクタンクとしての研究能力を育てていくというのが重要なポイントだと思っています。
 
■ 本音ベースのコミュニティ
 
シンクタンクとして人を集めるためには、どうしてもお金が必要です。
我々は、法人格としては国際文化会館という公益財団法人の下にありますので、基本的にはコンサルタントとか営利事業とかができないことになっています。してもいいのですが、営利事業は全体の半分を超えられないので、お金は基本的にノンプロフィットでしています。
具体的に何をしているのか。簡単に言うと、企業の方々に会員になってもらう形です。特定の企業に依存するのでなく、すべからく会員に等しく対応します。
今、41社の会員がいて、これからまた増えていくと思います。このような会員の方々に会費を払っていただき、その対価として会員全員に向けてこうしたサービスを提供するわけです。もちろんサービスには、グレードがあり、金額によって若干異なるのですが、基本的には皆さんにサービスを提供する形で対応しています。様々なセミナーとか、サロンとかを開いて、会員同士の関係も深めていただく。このような実務家の方々が、我々のもとで業界を超えて――もちろんその中には、競合の会社もあるのですが――本音ベースで話をすることにより、現在直面している経済安全保障や地経学的な課題を議論する。このような場所に、ゲストとして企業の方だけでなく例えば役所から人を招いたりとか、我々が様々な情報提供をしたりとかの形で、産学官のハブ、一つのコミュニティをつくることを目的としています。また、先ほど池内さんが報告の中で「サステイナブルではない」という言い方をしましたが、サステイナブルであるためには、このような財務体質を整えておく必要があると思います。
また、池内さんがおっしゃっていたように、我々も外国からゲストを招きます。我々のところに外国からのお客さんが来たとき、会員の方々と意見交換をしていただくことで、会員のコミュニティをつくっていく。コミュニティの中では本音ベースの意見交換やためらわない議論ができる関係をつくろうと思っています。
例えば、経済団体でこうしたゲストを招くと、大きな会場に300人や400人の人がいて、当り障りのない質問しか出ないことがあります。我々のところでは、もっと真剣に議論をしていただくことで、ゲストの方々にも非常に好評です。
その他、会員向けの事業として、毎週末に読んでいただくGeoeconomics「Weekend Reader」を出しています。また、中国とインドの需要が非常に大きいので、中国研究グループを設けているほか、インドに関しては法政大学のマニーシュ・シャルマさんを客員研究員に迎えています。彼は月1回で論考を出してくれます。アメリカやヨーロッパを研究している我々のスタッフは、欧米の規制動向などを調査して報告しています。
それ以外にも、なんていうか、修学旅行ではないのですが、会員と一緒に外国に旅行する企画もあります。昨年は台湾、今年は韓国に行ったのですが、現地の政策担当者の方々や大臣次官クラスの方々と意見交換をすることで、会員企業の方々が普段接触できない人との意見交換をする機会をつくることもしております。
このように、企業に様々なサービスを提供して、そのサービスの対価として会費をいただくという形で、運営しています。41社の企業にまんべんなく同じサービスを提供することによって、特定の企業に依存せず、我々が独立を保つことができます。修学旅行のような国外旅行でも、我々がアジェンダ設定をする。これが良いと自分たちで判断したサービスを提供する。ゲストの側も、自分たちで選び、会員の方々に紹介する。そのような形で進めています。
 
 ■ データベース「トラトラ」
 
松本大使から先ほど、世論に対する働きかけの話がありましたが、私たちの取り組みをお話しします。昨年はアメリカ大統領選の年でしたので、「選挙は世界を変えるのか」という特集を組んで、世界70カ国ぐらいの選挙の結果をずらっと並べたデータベース的なものをつくり、そこに解説をつけて、動画解説も入れています。今年は「トランプイヤー」ということで、トランプ大統領の行動、トランプ政権の方向性を追跡するデータベース「トランプ・トラッカー」をつくりました。我々は略して「トラトラ」と言っていますが、ここに大統領令や主要な演説、覚書メモランダムを全部リストにしています。
そこに、全部ではないのですが、重要と思われるものや、我々の研究員が関心を持つものを、解説をつけてやっています。
また、「タリフ・トラッカー」と呼んでいますが、日々めまぐるしく変わるアメリカの関税政策について、「これはちょっとまずいな」と思い、それをちゃんと理解するために、クロノロジカルにどうやって動いてきたのか、その法源となる例えば通商拡大法232条はどのようなものなのか、といったことを解説したものを挙げるページをつくっています。英語と日本語と両方あります。
それ以外にも、世界がトランプをどう見ているかに焦点を当て、先ほど紹介した毎週発行のニューズレター「Weekend Reader」の中に、各国のオピニオンリーダーがどういう議論をしているかをまとめています。その中では、英語だけではなく、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、韓国語、インドネシア語、ベトナム語、今はヒンディーもあると思いますが、各言語の新聞や雑誌でどういう議論がなされているのかを集約し、その中に表れるトランプ政権に対する印象を探っています。
一般向けのアンケートもしています。日本の企業が経済安全保障についてどう考えているかを問い、日本語と英語両方で公表し、外国でも参照されました。こうして、日本からの発信をどんどん進めようとしています。中堅中小企業に関する意識調査も実施しました。ディスインフォメーションに関するレポートも出しました。
以下がアンケートなどの報告です。
 
 
 
 
我々の研究員の研究成果は、「地経学ブリーフィング」として毎週提供しています。
原稿の執筆者は主に研究員で、時々はゲストも招きます。研究員が書いた原稿を2回にわたって編集委員会にかけ、みんなから様々なコメントをもらい、これを提出するという形で進めています。これは、先ほど課題として出された人材育成の観点からも、地経学研究所ならではの取り組みだと思います。
 
 
最後に、やはり世間にアピールするのは、テキストだけだと十分ではないないので、毎週「地政学インサイト」という対談形式の動画を週替わりのテーマでつくっています。また、土曜日に月1回「オンラインサロン」を開いており、私がホストになってゲストをお迎えし、テーマを深掘りするということも試みています。
 
 
 
英語でも、「地経学アジェンダ」というポッドキャストを発信しています。動画よりポッドキャストの方が受けるそうで、英語ではポッドキャストでやっています。
外国のシンクタンクともに協力しながら、同じ水準で研究を進めていこうとしています。アメリカのCSISを初めとするシンクタンクと協力しています。
 
 
 
以下は、全部ではないですが、公開しても構わないと言っていただいている会員の企業の一覧です。これ以外にも企業は参加しており、全部で41の会員企業があります。その方々に我々は支えていただき、このような研究をさせていただいている状況です。
 
 
このような形で今、シンクタンクの活動をさせていただいています。ROLESさんとは少しやり方も、財源も、目指すところも違いますが、それぞれ外交・安全保障に関するシンクタンクということで、切磋琢磨しつつ、お互いに協力しながらやっていければと思っています。
とりあえず私からは以上です。
 
(司会) ありがとうございます。では山本さん、お願いします。
 
【山本文土】 ご紹介いただきました外務省総合外交政策局参事官の山本です。先ほどご紹介があったように、シンクタンク事業を統括する立場におります。
また、業務としては他にも、「ポリシープランニング」といわれる国同士の中長期の政策企画を議論する枠組みも担当しています。各国との2カ国間協議や、G7などのマルチ協議、トラック1.5といわれる産・官との協議などにも参加しています。
私はもう30年近く外務省にいますが、これまで海外ではブリュッセル、アメリカ、韓国に勤務しまして、現地でも様々なシンクタンクの方々と付き合いをしてきました。その経験も踏まえて、本日は簡単ですが、シンクタンクのあり方についてお話したいと思います。
今日の議題は非常に面白いと思います。日本の外交・安全保障について議論するシンポジウムはいろいろありますが、シンクタンクのあり方自身を正面から捉えるというのは、非常に珍しいのではと思います。
池内先生のこのイニシアチブに敬意を表したいのですが、なぜ面白いのか、私なりに考えると、ウクライナにせよ、中東にせよ、やはり世界が大きく動く中で、シンクタンクの外交・安全保障への関わり方が、世の中で関心が非常に高くなっているからだと思います。これを1つのきっかけとして、国内でも議論が盛り上がるといいなと考えます。
私自身は昨年9月からこのポストにおり、池内先生をはじめ日本国内の多くのシンクタンクの方々と、これまでも意見交換をさせていただき、日本のシンクタンクにはどのようなあり方が合っているかを、自分なりに少し考えてきました。これについてお話したいのですが、今日お話しする中身は私の個人的な見解が多く入っています。必ずしも組織を代表するものではない点は、ご了承ご理解いただければと思います。
 
 ■ 変革期を迎えたシンクタンク
 
まず現状ですが、日本のシンクタンクは大きな変革期を迎えているのではと思います。先ほどご紹介があったように、2020年にROLESが誕生し、地経学研究所が2022年に生まれ、2023年には慶應義塾大学でも「慶應戦略構想センター」(KCS)が発足していて、様々な動きがあります。
これは、世界情勢に大きな変化が起きたことに加え、松本先生からも指摘がありましたが、政府ではなかなか採用しきれていない、発信しきれていない部分があるからだとも思います。そこをシンクタンクで補完していくわけですが、その背景には、技術の発展に伴って様々なソーシャルネットワーク、SNSが生まれてきている状況に、我々が対応しきれていないという面があると思っています。
シンクタンクとしては、伝統的な日本国際問題研究所(国問研)が外交・安全保障の大きな研究所として存在していますが、今後は様々なシンクタンクが共存し、競争する時代に入っていくのではないかと考えています。競争を通じて、シンクタンクがどんどん発展していくことを、我々も祈念しております。
政府の取り組みとしては、先ほど池内先生からもご説明がありましたが、毎年約10億円の規模でシンクタンク向けの補助金事業を実施しています。国内のシンクタンクから公募して、公平に決定して支援をしていく形です。予算が国内的には非常に厳しい事情もありますが、引き続き外務省としては、この事業を継続強化していきたいと考えております。
このような補助金等とは別に、委託事業があります。外務省のみならず各省も様々な事業を実施しています。特定のテーマを決めて研究を委託するわけです。
では、海外と比較して、日本のシンクタンクはどうなのか。実は2012年、シンクタンクのあり方を外務省で検討し、有識者懇談会の報告書が出ています。詳細はホームページにも載っているので見ていただければと思います。
私は個人的に、これまでの経験や様々な話をうかがったうえで、シンクタンクには3つの機能があると考えます。池内さんのお考えと重なる面があるでしょう。
1つ目は、情報発信、政策提言機能です。シンクタンクのコアとなる機能かと思います。
2つ目は、人材育成、人材プールの機能です。
3つ目は、国内外のネットワーキング機能だと思っています。
情報発信や政策提言は、今でも国内で広く行われていて、これは海外に比べても遜色のないレベルではないかと思っています。対面やオンラインセミナーですが、コロナの影響もあってオンラインによる事業が非常に活発になっています。また新聞等のハードの媒体やテレビ等、ホームページやメール等など、媒体が多様化する中で、様々な発信もできています。
人材育成については、海外と一番差がある部分ではないかと思います。特に、アメリカとか韓国とかでは、政治任用で政府高官がシンクタンクにいて、政権が変わると、政府に入ってくる。逆に、シンクタンクにも戻るシステムになっています。ただ、日本はなかなかそこまで大きなニーズがないということかもしれません。日本の行政では元々、ポリティカル・アポイントメントが少ない事情もあるからです。
日本の場合にユニークなのは、大学との連携が非常に活発なことかと思います。まさにこのROLESがそうですし、慶應義塾大学でも最近シンクタンクが生まれました。先ほどご説明があったように、IOGでも研究員の多くの方が大学にも所属しているのが、非常にユニークな部分かと思います。
これは、プラスの面としては相乗効果が起きたり、流動性が生まれたりすることかと思いますが、マイナスの面としては、なかなか専門の人材を育てにくい点があると思います。
あと、海外のネットワーキングですけれども、これはもう少し活動の幅を広げていってもいいかと感じております。
次に政府との接点ですが、一定程度の関わりは海外でもなされています。日本でも一定程度ありますが、もっと活発にしてもいいのではないか。例えば、トラック1.5のシンポジウムや、チャタムハウスルールによる議論、オンライン勉強会などがあり得るかなと考えています。
また、これは最近外務省でも取り組んでいますが、クローズドな形での勉強会を、もっと開いてもいいと思います。
 
 ■ 日本独自の発展を
 
他方、先ほど松本先生からも話がありましたが、霞が関が自分たちの中で研究分析をすることが多く、それができてしまうような部分もあります。外務省だと専門用語を理解できる人が非常に多く、松本先生のお話の通り中東の言葉もできて、出張して、情報も取れてしまう。そこで、どうしても自分たちで完結してしまうところがあるのかなと思います。ただ、ここはもう少し、シンクタンクを有効に活用するという余地はあるでしょう。
今後の展望ですが、私としては、大学と連携しながらいく形で悪くないのかなと考えています。ある種これは、ガラパゴス的な日本独自の発展ですが、1つのモデルケースとして進めていけばいいでしょう。
先ほど池内先生もおっしゃっていましたが、プラスの面を伸ばして、マイナスの面は補完していくということかと思います。
予算面で言うと、政府としては今ある補助金や委託事業を中心に考えています。すでに述べた通り、予算事情は非常に厳しいので、大きく増えることはないでしょう。そうするとやはり、先ほどIOGでのご説明にもありましたが、民間企業による予算をもう少し、増やしていく努力があっていい。これはアメリカで盛んなわけです。
残る課題としては、海外のシンクタンクの交流をもっと活発にしもいい。例えば、研究員の短期や長期の受け入れとか、相互派遣とか、いろいろ考えられると思います。
以上がシンクタンクについてなのですが、最後に外務省の宣伝です。我々もぜひ、優秀な方々に来てもらいたいと思います。1つの進路として外務省も考えていただければと思います。
ありがとうございます。
 
(司会) ありがとうございました。
(つづく)
(本稿はシンポジウム開催後、発言者による最小限の加筆修正を経ています)