・会議では計3つのセッションを設け、いずれも各2名の報告者による研究報告が行われた。報告を踏まえてフロア参加者全体での質疑応答も実施した。 a) 第1セッション「東アジアと琉球・沖縄をめぐる歴史認識」 ・2名の報告者は、①歴史学の観点からみた、東アジア地域における琉球・沖縄の経済史・外交史的位置づけとそこでの自己決定権のあり方、②第二次世界大戦後の沖縄の歴史認識を強く規定してきた沖縄戦をめぐる歴史認識の変遷について、それぞれ研究報告を行った。 ・質疑応答では、現在の沖縄の若年層のアイデンティティ状況に関する質問などがあった。これに対し、今日の沖縄の若者たちのアイデンティティは、「沖縄人であり同時に日本人である」との意識が多数を占めること。アイデンティティ形成の場は、かつての家庭での語りから学校教育に移行しているが、教育内容のマンネリ化や教育関心の高い教員の偏在、世代内での分断などの問題がみられること。アイデンティティ形成の場として、今後はSNSでの交流が重要になっていくであろうことなどの意見が提出された。
b) 第2セッション「日米関係と日本外交」 ・自衛隊の南西シフトと沖縄の米軍基地問題を分析した第一報告者は、沖縄問題を論じる際の留意点として、戦後国際秩序をめぐる日米両政府(現状維持志向)と沖縄県(部分的な現状変更志向を含む)の立場の違いを理解すべきことを強調した。安全保障環境の緊迫化のもとでも、日本政府は沖縄との戦略的コミュニケーションを強化しつつ、防衛力の強化と沖縄の基地負担軽減の両立という難題に取り組む必要が指摘された。 ・第二報告者は、高市早苗首相の政治家像と高市政権の外交・安全保障政策を考察した。トランプ大統領個人は台湾問題に十分な関心を示していないこと、対中国関係ではいわゆる「台湾有事」答弁を契機とする日中対立の長期化が懸念されることなどが言及された。 ・質疑応答では、「台湾有事巻き込まれ」論をめぐる沖縄県内の懸念について議論が交わされた。①「巻き込まれ」の不安について、確かに沖縄メディアでは高市政権への批判的論調が強いが、同時に対中警戒論も高まっていること、②サンフランシスコ講和条約無効の主張をはじめ、中国側の過激な主張と過剰な反応の結果、沖縄県での中国の影響力工作は十分な効果をあげていないことが述べられた。
c) 第3セッション「東アジア国際情勢と中国外交、中台関係」 ・本セッションでは、いわゆる「台湾有事」をめぐる日本・沖縄・台湾の安全保障動向と、それに関連する中国側の歴史認識をめぐる認知戦が取り上げられた。 ・台湾有事における沖縄の位置づけと軍事的役割、対応を分析 した第一報告者によれば、中国の対台湾軍事作戦は、日本の自衛隊と在日米軍との戦闘を前提として構想されており、この点に疑問の余地はない。ただし、大規模軍事侵攻の蓋然性は低く、武力を背景に台湾を孤立・屈服させて統一する「強制的平和統一」がもっとも現実なシナリオである。また、日本に強力な反撃能力があれば台湾有事は抑止可能であるとして、スタンドオフ能力の後方配備、南西諸島の住民避難態勢の構築などの具体策を説明した。 ・第二報告者は、習近平政権の発足以降、「歴史戦」の焦点として、台湾と沖縄を念頭にサンフランシスコ講和体制への挑戦が本格化している状況に言及した。中国は現在、①「沖縄地位未定」論、②「台湾地位確定」論、③「サンフランシスコ講和体制無効」論の3つを主張している。これは、中国が力の圧迫だけでなく、歴史認識の言説においても、台湾・沖縄・日本列島からなる第一列島線全体に対する認知戦を本格的に展開し始めたことを意味するという。 ・質疑応答では、沖縄に対する中国側の最終的な狙いについて議論があった。中国の目的として第一に挙げられるのは、中国側の軍事能力構築のスピードに対して、南西防衛態勢の整備を含む日本の防衛力増強を可能な限り遅らせることである。ほかにも、台湾有事の回避は十分に可能であり、習近平時代の終焉まで時間稼ぎ(「Not Today Theory」)に努めるべきことが強調された。