コメンタリー

第2回 東シナ海対話フォーラム(那覇会議) 開催報告

2025年12月4、5日、東京大学先端科学技術研究センター創発研究オープンラボ(略称ROLES、代表:池内恵・東京大学教授)、および、ROLESが組織する「ユーラシア諸地域の内在論理」研究会(座長:川島真・東京大学教授)の主催により、昨年東京で開催された第1回に続き、「第2回 東シナ海対話フォーラム」(以下、「那覇会議」と略記)が沖縄県那覇市で開催された。企画提案と開催補助は鈴木隆・大東文化大学教授が担当した。

この会議の詳細を、以下にコメンタリーとして掲載する。


1. 概要
a) 進行、参加者
・1日目(12月4日)は表敬訪問と施設見学を実施。2日目(12月5日)は終日会議を行った。会議では、研究者と実務家のほかに、沖縄のメディア関係者、ジャーナリストが多数参加した。

b) 表敬訪問、施設見学(12月4日)
・ROLES関係者で、陸上自衛隊第15旅団(泉英夫旅団長・陸将補)と外務省沖縄事務所(紀谷昌彦沖縄担当大使・同事務所所長)を表敬訪問した。

・表敬訪問では、①日本と沖縄をとりまく安全保障環境の概況、②師団化を見据えた第15旅団の発展の歴史、③外務省沖縄事務所の主な担当業務と日本政府の沖縄政策、支援体制などについて、簡単な聞き取り調査と意見交換を行った。

c)会議(12月5日)
・安全保障を中心とする東シナ海の地域情勢をめぐり、東京と沖縄の参加者(一部台湾からのオンライン参加あり)を中心に、複数名によるパネリスト報告と、これを議論の材料としてフロア参加者全員での質疑応答が行われた。会議に参加したジャーナリストからも多数の質問が提起されるなど、フロア全体の討論では率直かつ活発な意見交換がなされた。

・会議終了後には、慰労懇談会を行い、個人レベルでの親睦とさらなる意見交換を行った。
・昨年(2024年11月開催)の第1回会議と同様、多くの参加者は、今回会議の意義を肯定するとともに、次年度以降もこれを継続していく必要性で同意した。

2. 那覇会議(12月5日)の議論の様子

・会議では計3つのセッションを設け、いずれも各2名の報告者による研究報告が行われた。報告を踏まえてフロア参加者全体での質疑応答も実施した。

a) 第1セッション「東アジアと琉球・沖縄をめぐる歴史認識」
・2名の報告者は、①歴史学の観点からみた、東アジア地域における琉球・沖縄の経済史・外交史的位置づけとそこでの自己決定権のあり方、②第二次世界大戦後の沖縄の歴史認識を強く規定してきた沖縄戦をめぐる歴史認識の変遷について、それぞれ研究報告を行った。
・質疑応答では、現在の沖縄の若年層のアイデンティティ状況に関する質問などがあった。これに対し、今日の沖縄の若者たちのアイデンティティは、「沖縄人であり同時に日本人である」との意識が多数を占めること。アイデンティティ形成の場は、かつての家庭での語りから学校教育に移行しているが、教育内容のマンネリ化や教育関心の高い教員の偏在、世代内での分断などの問題がみられること。アイデンティティ形成の場として、今後はSNSでの交流が重要になっていくであろうことなどの意見が提出された。

b) 第2セッション「日米関係と日本外交」
・自衛隊の南西シフトと沖縄の米軍基地問題を分析した第一報告者は、沖縄問題を論じる際の留意点として、戦後国際秩序をめぐる日米両政府(現状維持志向)と沖縄県(部分的な現状変更志向を含む)の立場の違いを理解すべきことを強調した。安全保障環境の緊迫化のもとでも、日本政府は沖縄との戦略的コミュニケーションを強化しつつ、防衛力の強化と沖縄の基地負担軽減の両立という難題に取り組む必要が指摘された。
・第二報告者は、高市早苗首相の政治家像と高市政権の外交・安全保障政策を考察した。トランプ大統領個人は台湾問題に十分な関心を示していないこと、対中国関係ではいわゆる「台湾有事」答弁を契機とする日中対立の長期化が懸念されることなどが言及された。
・質疑応答では、「台湾有事巻き込まれ」論をめぐる沖縄県内の懸念について議論が交わされた。①「巻き込まれ」の不安について、確かに沖縄メディアでは高市政権への批判的論調が強いが、同時に対中警戒論も高まっていること、②サンフランシスコ講和条約無効の主張をはじめ、中国側の過激な主張と過剰な反応の結果、沖縄県での中国の影響力工作は十分な効果をあげていないことが述べられた。


c) 第3セッション「東アジア国際情勢と中国外交、中台関係」
・本セッションでは、いわゆる「台湾有事」をめぐる日本・沖縄・台湾の安全保障動向と、それに関連する中国側の歴史認識をめぐる認知戦が取り上げられた。
・台湾有事における沖縄の位置づけと軍事的役割、対応を分析
した第一報告者によれば、中国の対台湾軍事作戦は、日本の自衛隊と在日米軍との戦闘を前提として構想されており、この点に疑問の余地はない。ただし、大規模軍事侵攻の蓋然性は低く、武力を背景に台湾を孤立・屈服させて統一する「強制的平和統一」がもっとも現実なシナリオである。また、日本に強力な反撃能力があれば台湾有事は抑止可能であるとして、スタンドオフ能力の後方配備、南西諸島の住民避難態勢の構築などの具体策を説明した。
・第二報告者は、習近平政権の発足以降、「歴史戦」の焦点として、台湾と沖縄を念頭にサンフランシスコ講和体制への挑戦が本格化している状況に言及した。中国は現在、①「沖縄地位未定」論、②「台湾地位確定」論、③「サンフランシスコ講和体制無効」論の3つを主張している。これは、中国が力の圧迫だけでなく、歴史認識の言説においても、台湾・沖縄・日本列島からなる第一列島線全体に対する認知戦を本格的に展開し始めたことを意味するという。
・質疑応答では、沖縄に対する中国側の最終的な狙いについて議論があった。中国の目的として第一に挙げられるのは、中国側の軍事能力構築のスピードに対して、南西防衛態勢の整備を含む日本の防衛力増強を可能な限り遅らせることである。ほかにも、台湾有事の回避は十分に可能であり、習近平時代の終焉まで時間稼ぎ(「Not Today Theory」)に努めるべきことが強調された。


3.那覇会議の総括と今後の事業の展望
(1)成果
・昨年度に開催した第1回東シナ海対話フォーラム(東京会議、2024年11月実施)とは異なり、今回は沖縄県での会議開催に合わせて、自衛隊と外務省の沖縄関係者への表敬訪問と施設見学を行った。自衛隊の南西シフトの現状や防衛の現場の課題などについて、充実した聞き取りや意見交換ができた。
・上記の東京会議と同じく、今回の那覇会議についても、多くの参加者が本フォーラムの意義を肯定し、次年度以降の事業継続を希望する旨を述べた。琉球大学名誉教授による「閉幕の言葉」では、東京・沖縄・台湾のそれぞれの「内在論理」に互いがよく耳を傾ける場として、本フォーラムが今後も第3回、第4回と実績を重ねていくことへの期待が表明された。
・人的交流の面では、東京と沖縄の有識者、とくに多くの沖縄メディア関係者との間で率直な意見交換がなされた。東京と沖縄のオピニオンリーダー間の相互理解の促進と長期的な人脈形成にとって、一定の意義があったと思われる。こうした成果は、民間学術団体のROLESとその研究会の活動であったからこそもので、「トラック2」の本領発揮といえる。

(2)今後の展望
・東京・沖縄・台湾間での相互理解と人脈形成の広がりは、一度や二度の会議ではその目的は達成できない。今後も中長期的観点に立った事業継続が望まれる。
・第3回目となる2026年度の会議は、台湾での開催(台北会議)を予定している。初回の東京会議、2回目の那覇会議と同じく、台湾会議でも、研究者はもちろん、現地のメディア関係者、ジャーナリスト、実務者をより多く招請したい。
・東京会議と那覇会議は外部非公開としたが、今後は一部を公開とすることも考えられる。台湾で開催の場合には、日本外交のパブリック・ディプロマシーの観点からも一部公開を検討する。
・会議の規模の拡大、とくに東京と沖縄の複数関係者の外国訪問を考慮すると、資金やロジスティクスの面で、外務省や国際交流基金をはじめ、民間企業・財団などの支援や協力を希望する。