コメンタリー

2024 / 12 / 29 (日)

ベラルーシに配備されたロシアの戦術核弾頭保管施設の現状(ROLES SAT ANALYSYS No.13)

 ロシアがベラルーシへの戦術核兵器配備の意向を表明したのは2023年4月のことである。ロシア政府の公式見解によれば、これはあくまでもロシア軍の管理下において戦術核弾頭をベラルーシ領内に前方配備するとともに、その運搬手段となるイスカンデル-M作戦・戦術ロケット・コンプレクスの供与やSu-25攻撃機の核搭載改修を提供するというものであった。つまり、米国が欧州諸国と行なっている「核シェアリング」と同じことであるというのがロシア側の言い分である。
 このうちの核運搬手段に関しては、イスカンデル-Mがアシポヴィチ、Su-25がリダ飛行場に配備されたと見られている。これに対して、平時から核弾頭を保管しておく前方保管施設がどこに置かれ、いかなる状況にあるのかについては信頼できる情報が乏しい状況が続いてきた。本レポートでは、光学衛星画像と合成開口レーダー(SAR)画像を用いてその位置を把握するとともに、現状について考察を行う。
 結論から述べれば、ロシア軍の戦術核弾頭前方保管施設は、ベラルーシ中部のボリシャヤ・ゴロジャにある第1405砲兵弾薬基地である可能性が高い。その概略位置と光学衛星画像を以下に示すが、核弾頭が保管されているのは、この施設の北側エリアであると思われる。次頁の画像①から読み取れるように、北側エリア一帯は従来、二重のフェンスで囲われていたが、これが2024年になってから三重になった。警備体制の強化を示唆するものである。さらに同年夏以降にはSARの電波に対して妨害電波が発振されていると思しきノイズが観測されるようになった。

  続いて、第1405砲兵弾薬基地の状況をより詳しく観察してみよう。
 次の画像②から明らかなように、弾薬庫の北側エリアではフェンスが三重化されるだけでなく、新たな施設の建設が行われていることが観測できる。
 このうちのAについては細長いタワー状をしており、光学画像で確認すると白と赤に塗り分けられていることがわかる。当初は横に寝かされた状態であったが、2024年10月には垂直に設置された。その目的は不明ながら、核弾頭が実際に配備されたことに伴い、核弾頭の管理を担当するロシア国防省第12総局(12GUMO)の専用通信施設が設置された可能性がある。
 Bについてはほぼ同じ形状の屋根付き建屋が2つ観察できる。Aの通信タワーと関連しているか、12GUMOの要員・機材を収容する目的があるものと思われる。

弾薬庫北側エリアにおける建設作業の様子

画像③は、核弾頭収容エリアのやや南側における建設活動を捉えたSAR画像である。コンクリート製のU字溝がこのエリアにおいて建設されていることは以前から観測されていたが、画像③ではその上に天蓋を設置するための骨組みが形成されつつあることがわかる。10mほどの幅があり、内部を建設用重機が通行していることからして、完成後には大型の軍用トラックが通行可能であろう。おそらくは北側エリアに保管されている核弾頭を運搬手段運用部隊に運ぶトラックに積み込むための弾薬交付所になるのではないか。

弾薬交付所と思われる施設の建設

画像④は、第1405砲兵弾薬基地から近隣の幹線道路に至るアクセス道路の建設状況を示している。道路は上記の画像③で言及した弾薬交付所に真っ直ぐつながる角度で建設されており、核弾頭を受け取った軍用トラックがそのまま幹線道路に出られる構造になっているものと思われる。道路の幅は約20mある。
アクセス道路の建設

まとめるならば、第1405砲兵弾薬基地では核弾頭保管施設としての機能を備えるための改修が盛んに行われている最中であると結論づけられる。実際に核弾頭が配備されているのかどうかは現時点で明かでないが、施設の改修がまだ行われている最中である以上、まだ完全な機能は備えていない可能性が高い。逆に言えば、同施設の改修が完了すれば、ベラルーシとロシアの「核シェアリング」が本格的に開始された兆候と見做せるはずである。

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