アメリカでは、党派的分極化が進む中で、有権者が党派性の影響を受けて経済状態を評価するばかりではなく、特異なかたちで、党派性が作用していることへの関心が高まっている(Hellwig & Singer2023;Lewis-beck & Stegmaier 2018;Healy,Persson & Snowberg 2017)。なかでも注目を集めている概念が、「党派性に動機づけられた推論(partisan motivated reasoning:PMR)」である(Webster & Albertson2022;Bullock & Lenz 2019)。
PMRが働くとき、人々は党派性に親和的な情報(partisan congeniality)を好んで受け入れる(Garz,Sörensen & Stone 2020)。ときに事実とは異なると分かっていてすら、自党派(in-party)に有利に情報を解釈し、事実に関する信念(factual belief)を改めない(Lelkes,Sood & Iyengar 2017;Bullock et al. 2015;Prior et al. 2015)。こうした党派性の作用が働くならば、たとえ経済状況が悪化しているという確度の高いニュースが流れ、否定的情報が伝わるとしても、一部の有権者は経済評価を更新することなく、望ましくない現職の支持にとどまってしまう。そして、再び現職を選びやすくなる。そうした有権者が相当数に上るとすれば、どうだろうか。「良い現職を再び選び、悪い現職を下野させる」というアカウンタビリティの働きは阻まれてしまう(高橋・粕谷 2015; Manin,Przeworski & Stokes 1999)。そのもとで、代議制民主主義が危機に瀕することに対して、警鐘が鳴らされているのである。
こうしてアメリカの例に触れると、“極端な国で起っている稀な事例なのではないか?” と思われる人もいるだろう。現在、経済投票に介するPMRへの関心は高まり、世界各国で同じ実験を重ねる追試研究が進んでいる。では、日本の場合はどうなのだろうか。日本においても、党派性は、特異な “あまり良くない” 作用のもとに有権者の経済投票を左右しているのだろうか。本稿では、筆者が行った2つの追試実験の結果をもとに、左記の問いへの答えを示していく。
(続きは本文をご覧ください)