論文

2021 / 04 / 15 (木)

ROLES REPORT No.6 宮本悟『北朝鮮の内在論理 : ナショナリズム形成と世界観の変化 』

はじめに
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朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、いうまでもなく権威主義体制の一つである。しかも、21世紀の世界では、 全体主義体制の特徴を強く持つ極少ない国の一つである。20世紀に生まれた全体主義体制は、超国家主義や社 会主義によく見られたが、20世紀の終わりまでにはほとんど姿を消した。北朝鮮はその例外であり、民主主義体制 とは最も対極に位置する存在である。  しかも、既存の国際秩序を形成してきた米国と、1950年から約70年にわたって軍事的に対立してきた。それは冷 戦時代から現在に至るまで変わっていない。その間、米国が主導してきた国際秩序を受け入れたことがなく、自由 貿易体制に関心を向けたこともない。筋金入りの反リベラルである。  もちろん、北朝鮮ではこの現状を望ましいものと考えているわけではない。しかし、それは既存の国際秩序を受 け入れたり、自由貿易体制に入ったりすることを望んでいるのではない。北朝鮮は、既存の国際秩序の現状を変更 することで、朝鮮半島から米国の影響力を排除して、米国に勝利することを望んできた。それも冷戦時代から現在 に至るまで変わっていない。2018年と2019年に開催された米朝首脳会談も、核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM) に恐れをなして米国が対話を求めてきたと金正恩は国内に説明した1。国家に内在する論理では米国と和解するの ではなく、米国に勝たねばならないのである。  北朝鮮が既存の国際秩序に挑戦することは、国際政治のパワーバランスだけで説明できるものではない。北朝鮮の核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)ICBM の開発は、米国に対する抑止力を持つことで、米国とのパワーバ ランスを取るための手段として説明できようが、そもそも北朝鮮はなぜ米国に勝たなければならないのかを説明で きないからである。それは国家に内在する論理から説明できよう。  また、北朝鮮は社会主義であるが、非社会主義である第三世界の国々との親密な関係も構築してきた。しかも、そ れは決して、米国と対立する国々だけではなかった。どうして、北朝鮮は、第三世界の国々とも親密な関係を築こう としてきたのか。これも、米国とのパワーバランスだけでは説明できない。第三世界の国々は、たいてい北朝鮮が頼 りにできるような軍事力を持っていないからである。むしろ、北朝鮮が第三世界の国々に軍事支援をしていた。これ も国家に内在する論理から説明できるのではないだろうか。  本稿では、なぜ北朝鮮が既存の国際秩序の変更によって米国に勝利することを望むのか、なぜ第三世界の国々 との親密な関係を築こうとするのかを北朝鮮の内在論理から説明したい。そのためには、国家のあり方であるナショ ナリズムの形成と、その世界観の変化に着目したい。それによって、北朝鮮が、欧米とは異なる論理で国家を形成し、 全く異なる世界観で国際社会を見ていたことが理解できよう。
鮮の核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)ICBM の開発は、米国に対する抑止力を持つことで、米国とのパワーバ ランスを取るための手段として説明できようが、そもそも北朝鮮はなぜ米国に勝たなければならないのかを説明で きないからである。それは国家に内在する論理から説明できよう。  また、北朝鮮は社会主義であるが、非社会主義である第三世界の国々との親密な関係も構築してきた。しかも、そ れは決して、米国と対立する国々だけではなかった。どうして、北朝鮮は、第三世界の国々とも親密な関係を築こう としてきたのか。これも、米国とのパワーバランスだけでは説明できない。第三世界の国々は、たいてい北朝鮮が頼 りにできるような軍事力を持っていないからである。むしろ、北朝鮮が第三世界の国々に軍事支援をしていた。これ も国家に内在する論理から説明できるのではないだろうか。  本稿では、なぜ北朝鮮が既存の国際秩序の変更によって米国に勝利することを望むのか、なぜ第三世界の国々 との親密な関係を築こうとするのかを北朝鮮の内在論理から説明したい。そのためには、国家のあり方であるナショ ナリズムの形成と、その世界観の変化に着目したい。それによって、北朝鮮が、欧米とは異なる論理で国家を形成し、 全く異なる世界観で国際社会を見ていたことが理解できよう。鮮の核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)ICBM の開発は、米国に対する抑止力を持つことで、米国とのパワーバ ランスを取るための手段として説明できようが、そもそも北朝鮮はなぜ米国に勝たなければならないのかを説明で きないからである。それは国家に内在する論理から説明できよう。  また、北朝鮮は社会主義であるが、非社会主義である第三世界の国々との親密な関係も構築してきた。しかも、そ れは決して、米国と対立する国々だけではなかった。どうして、北朝鮮は、第三世界の国々とも親密な関係を築こう としてきたのか。これも、米国とのパワーバランスだけでは説明できない。第三世界の国々は、たいてい北朝鮮が頼 りにできるような軍事力を持っていないからである。むしろ、北朝鮮が第三世界の国々に軍事支援をしていた。これ も国家に内在する論理から説明できるのではないだろうか。  本稿では、なぜ北朝鮮が既存の国際秩序の変更によって米国に勝利することを望むのか、なぜ第三世界の国々 との親密な関係を築こうとするのかを北朝鮮の内在論理から説明したい。そのためには、国家のあり方であるナショ ナリズムの形成と、その世界観の変化に着目したい。それによって、北朝鮮が、欧米とは異なる論理で国家を形成し、 全く異なる世界観で国際社会を見ていたことが理解できよう。

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