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本報告書は「ユーラシア諸地域の内在論理」研究会の3年間の活動の研究会成果です。以下に川島真座長による総論と目次を掲載致します。
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総論

川島真(東京大学大学院総合文化研究科 教授)

この共同班では、基本的に先進国の事例を基礎にして成り立っている国際政治、国際関係の考え方を改めて見直すことを念頭に置きつつ、新興国、開発途上国とされる国々がどのような考えに基づいて、いかに対外政策を実施しているのかということを考察した。第一期には、それぞれの国の歴史や世界観、また発展などの国益観や将来計画、そして国内政治の動向が重要だとの知見を得た(川島真・鈴木絢女・小泉悠・池内恵編著『ユーラシアの自画像 「米中対立/新冷戦」論の死角』PHP研究所、2023年)。しかし、結局のところ内在論理とはいえ、各国の個別性に還元されてしまい、全体としてのまとまりの弱い議論になるとの反省に立ち、第二期には一定程度抽象度を高めることを目指した。議論の過程で指摘されたキーワードの一つは「自主」であった。確かにこの点は、大国中心の国際政治認識では十分に掬いきれない論点であろう。

この自主性は岡本(隆)が東アジアの琉球/沖縄、台湾、香港などの自主という内在論理を考えるのなら15世紀を起点とすべきという論点を提起し、宮本は北朝鮮、家永は台湾における自主独立、あるいは自らのアイデンティティの拠り所のありようや、その論理の形成過程を論じている。ただ、その自主のありようが政権によって変化することを鈴木(絢)がマレーシアを事例に問題提起し、中西のミャンマーをめぐる論考は中国の詐欺犯罪集団と、それを摘発しようとする中国政府の動向との双方による圧力の中で生じるミャンマー側の自立性の問題を問い直している。

無論、それぞれの歴史観や世界像もまたこの自主を考える上では重要となる。ここではロシア軍の持つ独特の世界観を小泉が論じ、同じくロシアの持つ歴史認識と中国などとの同調を西山が指摘している。青木はタイ軍の歴史テキストからそこで論じられる自主が経済的自立だけでなく、主権や国土防衛に関連づけられていることを指摘し、日下はフィリピンを事例に内政の論理が優先され、それが対外政策に現れる事例を取り上げる。松田の論考は東南アジアのタイとフィリピンを取り上げ、大陸部、島嶼部という相違がそれぞれの国の外交を決定づけ、ASEANの分断が生じていることを指摘する。なお、このような歴史観が国家だけでなく、地方の領域でも起きることを指摘したのがウイグルを取り上げた田中の論考である。

冒頭にも述べた国内の論理と対外政策とが一体化する事例としては、山口が中国の「国家の安全」を挙げ、岡本(正)がインドネシアのプラボウォ政権が「自主と積極性」というインドネシア外交の模範のような姿勢を示しながらも、そこではある種の個人の思惑が働いており、結局国内向けアピールに終わってしまうのではないかとする。他方、中国では国内経済における標準形成を進めながら、一帯一路などを中心にそれを対外的に広めようとする。この点は伊藤の論考や、低空経済を取り上げた川島の論考から明らかだろう。

目次

総論(川島真)

Ⅰ. 内在論理・自主性
1. 東アジア史からみた「内在論理」(岡本隆司)
2. 台湾の「国家」をめぐる内在論理(家永真幸)
3. 北朝鮮における自主と独立とは何か?(宮本悟)
4. 国際秩序の主体としての「グローバルサウス」諸国(鈴木絢女)
5. 荒れる中国の「裏庭」―カンボジアとミャンマーのオンライン詐欺拠点についてー(中西嘉宏)

Ⅱ. 歴史観・世界観
6. フィリピンのナショナリズムと外交―「国民の物語」に着目してー(日下 渉)
7. タイ陸軍士官学校編纂『タイ国民史教育指導ハンドブック』にみるタイ国軍の対外関係理解(青木(岡部)まき)
8. 歴史認識をめぐるロ中協力の変遷(西山美久)
9. 東南アジアにおける中台関係―タイとフィリピンの事例―(松田康博)
10. 中華人民共和国建国初期における中国共産党によるウイグル・アイデンティ形成の試み(田中周)
11.ロシア軍の将来像(小泉悠)

Ⅲ. 内政から外政へ
12. 中国における国家安全保障体系の形成(山口信治)
13. 空回りする大統領主導によるインドネシア自主積極外交の復活(岡本正明)
14. 中国の標準化戦略にみる「内外連携」の実像―地方・国家・国際標準を接続するメカニズム-(伊藤和歌子)
15. 「低空経済」からグレーゾーン攻撃へ(川島真)