はじめに
本論文は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の対外関係を新たな手法によって明らかにすることを目的としたものである。鉄道の往来や橋梁の建設といったインフラの動向を衛星画像を用いて分析することにより、隣接するロシアや中国との間で北朝鮮がどのような関係性を築いているのかを実態的に把握しようと試みた。その結果は次のとおりである。
第一に、露朝国境においては両国間の往来が非常に活発になっていることが観察された。この点は統計情報とも一致しており、ウクライナへの侵略を継続するロシアが北朝鮮への傾斜を強めていることが背景にはあると思われる。これに合わせて露朝を隔てる豆満江周辺では、鉄道駅舎の新設や道路橋の建設に向けた基礎工事と思われる動きなど、インフラ整備が進んでいることも確認できた。他方、これらの活発な往来が純粋に経済的なものであるのか、軍事物資の輸送等にも用いられているのかは、本論文のために行われた調査の過程では明らかにならなかった。
第二に、中朝国境である鴨緑江周辺、とりわけ北朝鮮側において税関施設とみられる新たなインフラ建設が進んでいることも今回の衛星画像分析では明らかになった。この間、良好な露朝関係と対照的に中朝関係は停滞気味だったが、中朝国境の今後の動向について引き続き注目する必要があろう。
第三に、以上の動向は外交や物流に留まらない大きな変動につながっていく可能性を持つ。本論文の中で指摘したように、今後、豆満江開発が進んでいけば、露朝関係の緊密化だけではなく中国が日本海に進出するルートともなりかねないからである。
なお、本研究は一般社団法人DEEP DIVEと共同で実施し、同法人の協力でMaxar Technologies社の高分解能光学衛星画像を使用した。また、日本地球観測衛星サービス株式会社(JEOSS)との協力によって合成開口レーダー(SAR)衛星画像を使用し、天候に左右されない継続的な観測や光学画像ではわかりにくい地形の変化・広域的な状況の変化などを抽出した。