選挙を控える中、大きな議論を呼びながらも成立した法律「外国からの影響の透明性について」に対して国民はどのような見解を有しているのか。世論調査の結果とともに概観したい。
こちらの調査結果で興味深いのは、回答が2択しかなかった先述の調査に対し、「中立」や「わからない」の選択肢があることで、回答に迷う国民が無視できない割合を占めていることが明らかになっている点である。
1件目の支持/不支持に関する質問に対しては「わからない/回答拒否」が「支持する」と同じ割合を占め、2件目の将来への影響に関する質問に対しては「わからない/回答拒否」が「プラス」や「中立/影響しない」の回答を上回っており、単純な回答拒否や、同法の社会的反響が大きいため本心を明かしたくない回答者が一定数含まれるであろうことを踏まえても、自身の立場を決めかねている者が相当数いることになる。このことは、世代別の結果において支持/不支持またはプラス/マイナスという二項対立の観点では若い世代ほど同法に批判的な割合が多く年配者ほど肯定的な割合が多い傾向が顕著なのに対し、「わからない/回答拒否」の割合には世代間で大きな差が見られないことにも現れていると言えよう。
また、首都トビリシと地方との差異も興味深い。両方の質問において、「ロシア法」に肯定的な回答をする割合は、地方のほうが若干多いものの大差は無い。しかしながら、否定的な回答の割合は地方のほうがトビリシよりも10%以上低く、その分「わからない」の割合がトビリシよりも高くなっている。
しかしながら、これに対し、「2020年議会選挙後の野党の活動をどう評価するか」との設問では「否定的」との意見が58.2%と、与党に対する否定的意見の割合を大きく上回っており、また「肯定的」との回答は7.2%に過ぎない。
これらの結果からは、ジョージア国民が、現政権に不満や懸念を覚えつつも、他方で野党に対する不信感も強いというジレンマを抱えていること、またこの状況下での消去法的選択肢として、「ジョージアの夢」が政権にあることに対しある種の諦観があろうことが推測できる。
実際、「次の議会選挙で投票するかどうかにかかわらず、政権交代と現政権の維持とどちらを支持するか」との設問に対しては、政権交代を望む意見が50.8%、現政権維持の意見は33.0%となった反面、「2024年議会選挙はどのように終わると思うか」との設問に対しては「『ジョージアの夢』が政権に残る」との意見が41.8%と最多であり、「統一国民運動」をはじめとする野党勢力への期待は比較的低くなっている。
ジョージアは、2008年にロシアと国交を断絶、長年にわたってEU及びNATOへの加盟に向けて邁進し、2023年についにEU加盟候補国の地位を得た。同国は、引き続き親欧米路線を堅持してEU加盟を志向するのか、もしくは欧米からの「干渉」を排除してロシアとの関係改善を優先するのか。国家としての将来の展望は、与党「ジョージアの夢」の推進する一連の「ロシア的な」法律に反対する国民の意見が、10月に行われる実際の議会選挙の結果にどれほど現れるかに左右されるであろう。
[1] Kucera, Joshua, “Georgian Dream Plays Geopolitics To Shore Up Support At Home”,
Radio Free Europe/Radio Liberty, 11 June, 2024. <https://www.rferl.org/a/russia-georgia-relations-georgian-dream-abkhazia/32988405.html> (accessed 17 July, 2024)
[2]同法の全文は以下よりジョージア語、英語及びロシア語で参照可能:“LAW OF GEORGIA ON TRANSPARENCY OF FOREIGN INFLUENCE”,
Legislative Herald of Georgia, 28 May, 2024. <https://matsne.gov.ge/ka/document/view/6171895?publication=0> (accessed 16 July, 2024)
[3] “რა განსხვავებაა FARA-სა და “უცხოური გავლენის გამჭვირვალობის შესახებ” კანონპროექტს შორის”,
euronews.GEORGIA, 3 April, 2024. <https://euronewsgeorgia.com/2024/04/03/ra-ganskhvavebaa-farasa-da-uckhouri-gavlenis-gamhcvirvalobis-shesakheb-kanonproeqts-shoris/> (accessed 17 July, 2024)
[4] FARAがその成立経緯からナチスやボリシェビキのロビイングを対象の中心とし、マネーロンダリングや詐欺、贈収賄やテロ、制裁回避を取り締まろうとするものであるのに対し、ジョージアの「外国からの影響の透明性について」は保健、福祉、ガバナンス、法律及び経済の各分野でジョージアを支援する米国・欧州資金によるNGOを主な対象としていることが指摘されている。また、「外国代理人」の定義についても、FARAが「外国の指揮、統制、指示の下で活動する法人又は個人」としているのに対し、「外国からの影響の透明性について」では外国の指揮、統制、指示がなくとも「外国勢力」からの資金が20%以上含まれている非営利法人が対象となっている点でも差異が指摘されている:Jonas, Ted, “US FARA vs. Georgian Foreign Agents Law: Three Major Differences”,
Civil Georgia, 11 April, 2024. <https://civil.ge/archives/591175> (accessed 17 July, 2024)
[5]「ジョージア改革協会」によるファクトチェック・イニシアティブである「FactChek」は、「『外国からの影響の透明性について』は西側のプラクティスを支持するものである」との言説をフェイクであると認定の上で、米FARA、英「外国影響力登録制度」(Foreign Influence Registration Scheme, FIRS)、豪「外国影響力透明性制度」(Foreign Influence Transparency Scheme, FITS)などとの比較を行い、そのいずれとも目的や「外国の影響」の定義が異なることを指摘している: “კანონპროექტი უცხოური გავლენის გამჭვირვალობაზე დასავლურ პრაქტიკას ეწინააღმდეგება”,
FactCheck, 12 April, 2024. <https://factcheck.ge/ka/story/42763-kanonproeqti-ucxouri-gavlenis-gamchvirvalobaze-dasavlur-praqtikas-etsinaaghmdegeba> (accessed 16 July, 2024)
[6]カハ・ゴゴラシヴィリ欧州研究センター所長は、各国における外国政府の影響に関する法令が、外国勢力の利益のために活動するあらゆる組織を対象とする米国のFARA型と、外国から少しでも資金を得ているあらゆる組織を対象とするロシアの「外国エージェント法」型の2つに分類できるとした上で、ジョージアの「外国からの影響の透明性について」は、活動内容を一切勘案しないため事実上全ての非政府組織を対象としうるという点で、ロシア型に属することを指摘している: “რატომ არის კანონი რუსული ტიპის? - კახა გოგოლაშვილის განმარტება”,
BUSINESS MEDIA, 16 April, 2024. <https://bm.ge/news/ratom-aris-kanoni-rusuli-tipis-kakha-gogolashvilis-ganmarteba> (accessed 17 July, 2024)
[7]同法第2条及び第4条。
[8]ただし、当時は「運動」扱いであり、政党としての正式な発足は2024年3月。便宜上、本文中では政党として言及するものとする。
[9]ジョージア憲法第46条の規定によれば、大統領が差し戻した法案は、最初の採択時と同数以上の賛成票が議会での再採決で得られれば再採択となり、大統領は5日以内に署名・公布を行わなければならない。大統領がこれを更に拒否した場合、議会議長が署名・公布を行うこととなっている。
[10] პაპოშვილი, ელზა, “რა პერსპექტივა აქვს პრეზიდენტის მიმართვას საკონსტიტუციო სასამართლოსადმი „გამჭვირვალობის კანონის“ გაუქმებაზე”,
რეზონანსი, 15 July, 2024. <http://resonancedaily.com/index.php?id_rub=2&id_artc=208831> (accessed 16 July, 2024)
[11] “წულუკიანის მტკიცებით, რუსულ კანონს მხარს 60% უჭერს, თუმცა არ ამბობს - რომელი კვლევით”,
ფორმულა, 20 May, 2024. <https://formulanews.ge/News/111599> (accessed 16 July, 2024)
[12] “Edison Research: მოსახლეობის 68% მიიჩნევს, რომ რუსული კანონი საჭირო არ არის”,
ფორმულა, 14 May, 2024. <https://formulanews.ge/News/111236> (accessed 16 July, 2024)
[13]その他、「不要」の割合は24-34歳で74%、35-44歳で71%、45-54歳で66%、55-64歳で62%となっている。
[14] “კვლევა: მოსახლეობის 69% ფიქრობს, რომ კანონი საქართველოზე რუსეთის გავლენას გააძლიერებს”,
ფორმულა, 14 May, 2024. <https://formulanews.ge/News/111246> (accessed 16 July, 2024)
[15] “კვლევა: 65%-ის აზრით რუსული კანონი NGO-ების და ოპოზიციური პარტიების შეზღუდვას ემსახურება”,
ფორმულა, 14 May, 2024. <https://formulanews.ge/News/111242> (accessed 16 July, 2024)
[16] “კვლევა: 73% აზრით, თუ კანონი მიიღეს, ეს შეასუსტებს საქართველოს EU-ში გაწევრიანების შანსებს”,
ფორმულა, 14 May, 2024. <https://formulanews.ge/News/111248> (accessed 16 July, 2024)
[17] “IPM - ის კვლევის მიხედვით რუსულ კანონს მხარს უჭერს მოსახლეობის მხოლოდ 22%”,
ტაბულა, 28 May, 2024. <https://tabula.ge/ge/news/718792-ipm-kvlevis-mikhedvit-rusul-kanons-mkhars-uchers> (accessed 16 July, 2024)
[18] Jonas,
op. cit.[19] Huijismans, Twan, Harteveld, Eelco, van der Brug, Wouter and Lancee, Bram, “Are cities ever more cosmopolitan? Studying trends in urban-rural divergence of cultural attitudes”,
Political Geography, Volume 86, April 2021,
[20] “ISSA-ის სოციოლოგიური კვლევის შედეგები | სრული ვერსია”,
მთავარი არხის, 13 April, 2024. <https://mtavari.tv/news/153386-issa-sotsiologiuri-kvlevis-shedegebi-sruli-versia> (accessed 16 July, 2024)
[21]このほか、アハリ党(中道リベラル、親欧州。「統一国民運動」より分離)9.1%、「ジョージアのために」党(中道右派、親欧州)3.3%、「ジョージアのための挑戦」党(中道、親欧州)3.0%、労働党(左翼ポピュリズム、親欧州)1.7%、「欧州のジョージア」党(リベラル、親欧州)1.4%、「保守運動―オルト・インフォ」(国家保守・キリスト教民主主義、親露。2024年に政党としての登録取消)1.4%、市民党(ポピュリズム、親欧州)1.4%、「民主主義運動―統一ジョージア」党(国家保守、親欧州)1.3%、「人民のために」党(進歩主義、親欧州)1.1%、「ギルチ―さらなる自由を」党(リバタリアン、親欧州)1.1%、ギルチ党(右翼リバタリアン)1.0%、「正義のために」党(親欧州)0.4%、「人民の力」党(右派、国家主権主義)0.4%、「愛国者連盟」党(国家保守・右翼ポピュリズム、穏健的欧州懐疑)0.4%、国家党(ポピュリズム)0.3%、共和党(リベラル、親欧州)0.2%、「法と正義」党(市民ナショナリズム、親欧州)0.2%、その他の党0.2%、わからない/まだ決めていない17.3%、無党派6.9%、回答困難3.6%、投票するつもりはない3.3%、であった。
[22]アハリ党が10.0%で第2位。4位以降は、「ジョージアのために」5.6%、「ジョージアのための挑戦」4.6%、「欧州のジョージア」2.8%、「人民のために」2.6%、「保守運動―オルト・インフォ」2.4%、「人民の力」2.0%、「ギルチ―さらなる自由を」1.9%、労働党1.9%、ギルチ党1.8%、「民主主義運動―統一ジョージア」1.5%、市民党1.2%、「愛国者連盟」1.0%、「法と正義」0.8%、「正義のために」0.7%、その他の党0.7%、国家党0.4%、共和党0.2%、わからない19.3%、無党派16.5%、回答困難1.2%、投票するつもりはない0.1%、であった。
[23]以降は、「愛国者連盟」13.1%、「ギルチ―さらなる自由を」11.7%、「欧州のジョージア」10.9%、「保守運動―オルト・インフォ」10.5%、アハリ党9.8%、労働党8.2%、「法と正義」7.4%、「人民の力」7.4%、市民党6.0%、共和党5.9%、国家党5.8%、「民主主義運動―統一ジョージア」5.7%、「ジョージアのために」5.1%、「正義のために」4.6%、「人民のために」3.0%、その他の政党0.1%、わからない12.6%、回答困難5.4%、そのような党はない4.7%であった。
[24]対して「変化なし」が30.7%、「改善した」が24.9%。
[25]「賛同しない」は28.0%。
[26] Atasuntsev, Alexander, “Why Is Georgia Again Trying to Push Through an Unpopular Foreign Agent Law?”,
Carnegie Politika, 13 May, 2024. <https://carnegieendowment.org/russia-eurasia/politika/2024/05/georgia-foreign-agent-protests?lang=en> (accessed 16 July, 2024)
[27] “Georgia's Ruling Party Initiates Bill Cracking Down On LGBT Rights”,
Radio Free Europe/Radio Liberty, 4 June, 2024. <https://www.rferl.org/a/georgia-ruling-party-bill-lgbt-rights-crackdown/32978909.html> (accessed 18 July, 2024)
[28] Katamadze, Maria, “Georgia to introduce Kremlin-style anti-LGBTQ+ bill”,
DW, 8 June, 2024. <https://www.dw.com/en/georgia-to-introduce-kremlin-style-anti-lgbtq-bill/a-69297419> (accessed 18 July, 2024)
[29]オフショア法及び積立方式年金法についても大統領は拒否権を行使しているが、うちオフショア法については「外国からの影響の透明性について」と同様に議会によって再採択された。積立方式年金法については、本稿執筆時点でまだ再採択はされていない。
[30] “პრეზიდენტი - ე.წ. ლგბტ პროპაგანდის წინააღმდეგ მომზადებული ცვლილებები, ე.წ „ოფშორების კანონი“ და „დაგროვებითი პენსიის შესახებ“ კანონი - სამივე არის „რუსული კანონი“”,
INTERPRESSNEWS, 11 June, 2024. <https://www.interpressnews.ge/ka/article/802965-prezidenti-ec-lgbt-propagandis-cinaagmdeg-momzadebuli-cvlilebebi-ec-opshorebis-kanoni-da-dagrovebiti-pensiis-shesaxeb-kanoni-samive-aris-rusuli-kanoni> (accessed 18 July, 2024)