論文

2025 / 07 / 26 (土)

大村華子「日本の政党支持者の経済的基礎:どの政党支持者が最も富めるものなのか、 苦境にあるのは誰なのか?」(ROLES REPORT No.43)

党派性が、民主主義政治体制、自由主義経済体制に与える影響に関心が集まって久しい(Bayes & Druckman 2021; Little 2019; Little, Schnakenberg & Turner 2022)。アメリカばかりでなく、世界各国の社会科学者が、党派性に沿って生じる分極化の影響に関心を注いでいる (Druckman 2024; Gidengil, Stolle & Bergeron-Boutin 2022)。
日本もその例外ではなく、党派性、すなわち政党支持の作用に関心が集まってきた国である。自由民主党(以下、自民党)を中心とする政権が長く続いたことにより、自民党単独、あるいは同党を中心とする与党に対する支持と他政党への支持、さらに無党派との対比は、学術的関心であるばかりでなく、実態上も重要な社会現象となっている。そして、日本における政党支持と経済の結びつきは、多国間比較の観点からも、類例を見ない示唆をもたらす事例を考えられてきた (Hellwig & Singer 2023; 大村 2025)。多くの研究が生まれ、政党支持と経済の結びつきの強弱、その特性についての知見が積み重なってきた(秦 2023; Ohmura & Hino 2023)。
一方で、「どの政党の支持者が最も富めるものなのか?どの政党の支持者が最も苦境にあるものなのか?」という基盤的な問いは、いまだ十分に解明されていない。日本の選挙空間の中で、多くの所得を継続的に得て、金融資産に恵まれてきた人たちは、どの政党を支持しているのだろうか。翻って、継続的な所得・経済的恩恵を十分に得難い層は、どの政党への支持と結びつくのだろうか。あるいは、政党を支持することに期待を見出せないでいるのだろうか。
こうした問いに答えるために、本稿は、日本における政党支持の経済的基礎(Economic foundation of party support)を検討する。具体的に本稿では、政党支持ごとに所得と金融資産という2つの側面を記述的に検証する。筆者は、2021年から2025年までの4年間にわたって複数の調査を実施し、計5万以上のサンプルに、政党への支持を問い、経済状況を尋ねてきた。経済状況のデータは、世帯の税引き前の年収総額(以下、額面年収)、世帯の手取りの年収総額、株式資産をはじめとする金融資産の保有額、それらの増減率、含み益・含み損の状態を含んでいる。これらの質問項目に対して得られた回答データを、本稿の分析で活用する。
なお、本稿は記述的な分析が中心となるので、「所得が多い人ほど、自民党を支持する」「金融資産が少ない人ほど、無党派になりやすい」といったように、原因と結果の関係にアプローチすることは難しい。本稿が推論できることは、あくまで所得状況と金融資産の保有状況が、どの政党支持が結びつきやすいかを明らかにすることに限られる。そうした限界を抱えるとしても、私たちが直観的に抱いている、「与党支持者は経済的に恵まれている」「無党派層は今の経済環境に不満なのだろう」といった印象に対して、本稿の記述的分析の知見は、一定の見通しを提供するものとなる。

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