1 はじめに―選挙イヤーと民主主義の後退
2024年は国内外で大きな選挙があり「選挙イヤー」とも呼ばれた。国外に目を転じれば1月にバングラデシュ総選挙と台湾総統選挙、2月にパキスタン総選挙、インドネシア大統領選挙、3月にロシア大統領選挙、4月には韓国総選挙、6月メキシコ大統領選挙、7月にイギリスとフランスで総選挙、11月にはアメリカ大統領選挙が行われている。日本の国政選挙としては10月に第50回衆議院総選挙が実施され、自民党・公明党からなる連立与党獲得議席数は215にとどまり、以後今日に至るまで少数内閣での政権運営となっている。
比較政治学の視点から近年の政治状況を見る上でのキー・ワードは、「民主主義の後退(democratic backsliding)」である。「民主主義の後退」とは「正当に選出された政府、典型的には独裁的な指導者の行動によって、民主主義の制度、規則、規範が徐々に侵食されていくこと」を意味する
[1]。こうした「民主主義の後退」は比較的最近民主化した国家にのみ見られるわけではなく、「先進民主主義諸国」と言われる国においても懸念されるようになっている。典型的には2016年アメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプの当選であり、2024年の同選挙でトランプが大統領に返り咲き、政権を担うようになってから打ち出した諸方針はそうした「民主主義の後退」という懸念をあらためて強めている。
翻って日本における民主主義を顧みると、選挙で選ばれた独裁的指導者こそいまだ現れていないものの…
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[1]Stephan Haggard and Robert Kaufman,
Backsliding: Democratic Regress in the Contemporary World, Cambridge University Press, 2021, p.1.