従来実施してきた研究プロジェクトでは、光学衛星画像を用いてカムチャッカ半島のロシア海軍原子力潜水艦基地を継続的に観察し、弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)による核抑止パトロールのパターンをある程度まで解明することができた。
しかしながら、カムチャッカ半島周辺はしばしば厚い雲や濃霧に覆われ、観測期間に大きく穴が開くことも少なくない。光学観測を補完する手段として、合成開口レーダー(SAR)による観測も試みたが、その判読は非常に困難であった。そこで、撮像例の中でも特に条件の良いものを光学衛星画像と比較することにより、どのタイプの潜水艦がどのような電波反射パターンを示すのかについて経験値を蓄積するという方法を採用した。結果的に、サブタイプの判別は困難であるとしても、大まかなタイプの判別は条件によって可能となってきた。以下はその実例である。
なお、以下の画像中では左端の桟橋にウダロイ級と見られる大型水上艦(①)が停泊しているが、この埠頭は長らく整備中であり、実運用されているのが確認されたのはこれが初めてである。これよりもさらに左側のエリア(次項参照)では埋め立て工事を伴ったさらなる埠頭建設が続いており、カムチャッカの原潜部隊がさらに増強される可能性を示唆している。
以上で述べた潜水艦の増勢と関連して、弾薬庫インフラの拡充も顕著である。以下は2018年と2024年のほぼ同時期において弾薬庫エリアをSAR撮像した結果を示したものであるが、かなり大規模ば拡充が行われていることが見て取れよう。既存の弾薬庫エリアの一部に新たな施設が作られただけではなく、その北部(黄色の点線で囲んだ長方形)においては地形を大きく変えるような大規模工事が行われてきた。
これだけの拡充が何のために行われているのかについては、二つの可能性が考えられる。その第一は、ボレイ型SSBNの増勢に伴って新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)やその搭載弾頭を保管する施設が必要になったというものである。従来のデルタIII型が搭載したSLBMが液体燃料式のR-29シリーズであったのに対し、ボレイ型では固体燃料式のR-30ブラワーが採用されたため、新たなSLBM保管インフラが求められているという可能性は排除できない。
第二の可能性は、従来とは全く異なる潜水艦搭載兵器が搬入される可能性である。「原子力核魚雷」と呼ばれるポセイドン・システムなどがこれに当たる。その搭載母艦のカムチャッカ配備が何時ごろになるのかが、今後の注目点となろう。