[ROLES Commen22 日本語訳]
[English Text] ニューカレドニアの騒乱からの教訓:フランスはAUKUSのパートナーや日本を必要としているギブール・ドラモット
パリ国立東洋学研究所教授(日本政治・国際関係論担当)
フランスはAUKUSに参加すると口にもしていないし、招待もされていない。しかし、ニューカレドニアでの出来事は、フランスがオーストラリア、英国、米国、日本との関係を強化しなければならないのだということを指し示す。フランスはもはや、戦略的バランスには頼っていられない。マクロン大統領の外交は同盟国に誤解されている。今や注意を喚起すべき時である。
南太平洋のフランス領であるニューカレドニアでは、法的な例外を改めようとする政府の計画に反対する暴動が起きている。
この島では1988年以来、新たに到来した国民が、一部の選挙で投票権を持てないできた。その制度は、(フランス本土などから)近年移住した人々によって島の人口バランスが変化し、白人に有利になるのを防ぐためのものだった。しかし、1988年に始まったプロセスを経て、2021年の住民投票で独立は最終的に否決されたことから、普通選挙におけるこの法的例外も終わらせるべきだと、政府は考える。一方、独立運動は2021年の住民投票をボイコットし、政府の計画に根拠がないとみなしている。
ニューカレドニアの地方政治は、国際問題としての性格を帯び始めている。アゼルバイジャンがロシアや中国と結託し、独立運動を後押ししているのではないか、との疑惑が浮上しているからだ。その中国からの影響も指摘されている
[1]。ニューカレドニアは世界第3位のニッケル生産国であり、南太平洋でのフランスのプレゼンスにとって鍵を握っる存在である。
さらに、これらの出来事はフランス領ガイアナやマルティニーク(カリブ海のフランス海外県)にも波及する可能性がある。
この暴動は、インド太平洋におけるフランスの戦略と同盟国への態度に新たな光を当てた。
「2030年を迎えるころ、フランスは均衡を保ち、一致団結し、グローバルな影響力も持つ大国としての確固たる役割を担い、自立した欧州の牽引役となっているよう望む。信頼性に足る支援者として、国際法に依拠した多国間メカニズムの維持に貢献するという責任を担う者であるよう望む」。マクロン大統領は『2022年国家戦略見直し』の冒頭でこう述べている。
同盟国の目には矛盾するように見える2つの流れを、フランスはつくろうとしている。
自らをバランスの取れた大国と見なすフランスは、新ドゴール主義のスタイルを採りながらも仲介役として振る舞いつつ、中国と米国との間で展開されつつある「新たな冷戦」とは異なる選択肢を、「グローバル・サウス」に含まれる国々に示そうとしている。そうすることで、(ロシア・ウクライナ)戦争が初期段階で終結するよう、マクロン大統領は望んだ。中国に対しても、マクロンは善良なふりをしつつ、商業的利益を得ようとしている。
2023年のEUやドイツとは異なり、フランスの貿易は主にEUの近隣諸国との間であるため、フランスはEU全体ほど中国貿易に依存していない。とはいえ、中国は重要な市場である。
習近平が最近パリを訪れた。宣言のいくつかの文章は、前向きな考えである、希望の持てる、率直なものだと読み取れた。
「モスクワへのいかなる武器や援助物資の売却も控え、また、デュアルユース商品の輸出を厳格に管理する、といった取り組みを中国当局が1年前に始め、今回5月6日に再度表明されたことを、フランスは歓迎する」
「フランスは、バッテリー、電気自動車、技術ソリューション、革新プラットフォームを含むハイテク技術への共同投資を奨励する」
「フランスと中国は、人工知能の発達に関連したものを含むあらゆる種類のサイバー脅威に対処するため、国家の、特に発展途上国の、サイバー能力を強化しなければならないという点で合意した」
しかしフランスもまた、中国封じ込めを助けるためにインド太平洋に海軍を展開している。日本とフランスは、公海における航行の自由、インド太平洋における国際法の維持に関して、共通した懸念を抱いている。フランスは日本と同様に、オーストラリア空軍が主催する「ピッチ・ブラック」、海軍が参加する「カカドゥ」や、「タリスマン・セーバー」に参加している。また、アメリカが主催する環太平洋合同演習(リムパック)にも参加しており、日本もこれらの演習に加わっている。フランスのJEANNE D'ARC(ジャンヌ・ダルク)作戦は毎年、数カ月にわたって海軍を世界各地に派遣する。2024年にはインド洋にも日本にも派遣されないが、2024年には、日本の海上自衛隊との合同演習を含め、シャルル・ド・ゴール空母打撃群がインド洋に派遣される予定だ。南シナ海では、年間3隻から5隻のフランス艦船が作戦任務(演習や通航とは異なる)を遂行している。フランスは今年4月から5月にかけて、アメリカ、フィリピンとともに米比合同軍事演習「バリカタン」に参加する。6月にもフリゲート艦は同海域に入る。
インド太平洋に5つの軍事基地と司令部を持ち、160万人の国民を抱えるフランスは、ここに強い関心を抱いている。フランスはインド洋委員会(IOC)と環インド洋協会(IORA)のメンバーである。フランスは太平洋諸島フォーラムの後継フォーラムの対話の相手である(米国、英国、日本も同様)。ニューカレドニアは(オーストラリアとニュージーランドのように)PIFのメンバーであり、ウォリス・フツナはオブザーバーの地位にある。仏領ポリネシアとニューカレドニアは、日本が設立した日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議(PALM)のメンバーである。フランスは2023年に初めて、南太平洋防衛大臣会合(SPDMM、2013年にオーストラリアが創設)をニューカレドニアに招いて開催した。フランスはASEANの開発パートナーであり、ASEAN国防相会議+海上安全と平和維持に関する作業部会に参加している。フランスは、オーストラリア、米国、ニュージーランドとともにパシフィック・クアド・パトロールの一員であり、毎年170日間、太平洋の島嶼国のEEZをパトロールし、その職員が乗船して違法行為を取り締まる。
したがって、パリにとって、その行動指針に矛盾はない:フランスのコミットメントは揺るぎない。フランスは中国との対話の形を模索しているが、それは外交的均衡を探るものであり、中国に対して軍事的なメッセージを送るものである。マクロンの狙いは、世界を2つの敵対するブロックに分割することを避けることだ。フランス外交はアジアにおける「主権パートナーシップ」を模索している。
日本のような国と連携すると、それが可能になる。日本は、志を同じくする国々とのパートナーシップの構築に多大な努力を払ってきた。AUKUS諸国、場合によってはAUKUSそのものとのパートナーシップ、そして防衛力とハードな抑止力を高める努力によって、多層的な抑止力を発展させることに熱心である。よりソフトなレベルだと、クワッドとか、インドや海洋国家東南アジア諸国と協力とかは、これらの国々を軍事的に支援し、中国に手出しをさせないようにする助けとなるだろう。
グローバル・サウスに対しては、日本は食料安全保障や気候変動などの問題に関心を示している。自由で開かれたインド太平洋戦略に基づいた日本の政府開発援助は、発展途上国に「接続性」と「質の高いインフラ」を提供するのを狙いとしている。
フランスは、このグローバルで首尾一貫した枠組みを乱している。気候変動に関心を持つフランスに日本が協力することは理にかなっており、サイバーセキュリティや原子力問題をめぐっても日仏は何年も対話を続けている。しかし、フランスは日本やその同盟国に全面的に寄り添うことはなく、イギリスよりも信頼できないパートナーに見える。なぜフランスは、NATOが戦略的南方ハブを開設することには賛成するのに、それよりずっと実効性がなく地味だが一方で象徴的な意味を持つ東京のNATO連絡事務所に反対するのだろうか。
フランスは同盟国が必要だと認識しなければならない。
日本はフランスにとって重要なパートナーであり、両者の結びつきの強さは計り知れない。習近平国家主席訪問の直前の5月初旬に、岸田首相がパリを訪れた際、円滑化協定(RAA)の交渉開始(実際にはここしばらくの間、調整が続いていた)が新たに発表された。日本はフランスでテック企業とスタートアップ企業が年一度集うVIVATECHといったサロンで今年のゲストになる 。2025年には、2023年に日本が立ち上げたAIサミットをフランスが主催する。フランスはスーダンとニジェール(2023年)、ハイチ(2024年3月)から日本人を避難させた。
2023年12月、両国は新たな『日仏協力のためのロードマップ(2023-2027年)』に署名した。この新しい文書は、以前のもの(2019-2023年、8ページ)よりも充実したもの(21ページ)である。両国は、台湾海峡に平和と安定が必要であることを強調している。両国は、台湾の国際機関への、メンバーとしてあるいはオブザーバーとしての参加を支持する。全般的には、一方的な、あるいは武力や威圧による現状の変更を拒否する。両国の協力のための実用的な提案も、大枠が示されている。日本は、フランス、EU、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアが主導する気候レジリエンスのイニシアチブ「KIWA」に参加することができる。そこでは、気候変動や海洋安全保障に関する協力が模索される。
日本は、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、シンガポール、インド、米国とともに、フランスの『2022年インド太平洋戦略』に記載されているパートナーのである。同「戦略」はこう記す。「インド太平洋におけるこれらの同盟国や主要なプレーヤーとともに、フランスは緊密な関係を維持し、最近のAUKUSの合意発表によって提起された課題を含めて共同行動を強化したい」
フランスがAUKUSのパートナーに働きかけることは、理にかなっている。豪州との関係は、豪州の政権が交代し、協力のためのロードマップ
[2]に署名したことによって、改善した。
しかし、フランスのインド太平洋戦略(2022年)に英国への言及はなく、2023年の『国家戦略見直し』でもわずかな言及があるのみである。
「フランスは次に、EUの『戦略的コンパス(羅針盤)』採択とともに始まった欧州パートナーシップ政策の更新を支持する。アフリカや、インド太平洋の国々と、場合によっては米国や英国との間でEUの防衛関係を強化しつつ、また定期的かつ集中的な防衛・安全保障対話に支えられたバランスの取れた関係を構築しつつ、密接に連携していく」
この文書が明確にしているのは、米国に追従する意思はフランスにない、ということである。だからこそ、フランスはNATOと平行して、欧州防衛を強化しようと狙っているのである。
欧州の文脈で考えると、フランスにとって最良のパートナーは英国である。英国の下院は、フランスを「志を同じくするパートナー」とみなし、防衛協力の強化を求めている
[3]。英国の『統合リビュー刷新2023』は、インド太平洋における欧州の恒久的な海洋プレゼンスをフランスとともに確立することを求め、英仏防衛協力条約(ランカスター・ハウス条約、2010年)に言及している
[4]。
マクロン大統領は、自身の外交路線が正しいと確信しているようで、中国とのバランスの取れた関係を維持できると確信している。マクロン大統領は、中国との外交路線が正しいものだと確信しており、中国との均衡の取れた関係を維持できると信じているようだが、その成果が上がっていないこと、そしてそれがパートナーに不安を与えていることに気づいていない。ニューカレドニアでの騒乱は、独立運動に対する外国勢力の影響力が増大していることをさらけ出した。
フランスは、どう思われようとも、一方の側に立っているのである。その立場をパートナー国に理解してもらえるよう、行動を引き締める必要がある。
[1] Clara Hidalgo, ‘‘Ambitions géostratégiques’, ‘ressources enviables’’... pourquoi la Chine étend son influence en Nouvelle-Calédonie ? »,
Le Figaro, 25 July 2023.
[2] Department of Foreign Affairs and Trade,
Australia-France Roadmap - A New Agenda for Bilateral Cooperation, December 2023: https://www.dfat.gov.au/countries/france/australia-france-roadmap-new-agenda-bilateral-cooperation
[3] House of Commons, Foreign Affairs Committee, 'Tilting horizons: Integrated Review and Indo-Pacific', HC 172 incorporating Session 2021-22 HC 684, 30 August 2023, pp.56, 74: https://committees.parliament.uk/publications/41144/documents/204045/default/
[4]フランス No.1 (2010) Cm 7976, グレートブリテン及び北アイルランド連合王国とフランス共和国との間の防衛及び安全保障協力に関する条約 (2011): https://assets.publishing.service.gov.uk/media/5a75c663ed915d6faf2b594e/8174.pdf