新疆ウイグル自治区に所在するロプノール(Lop Nur)核実験場では、1964年10月に中国初の核実験(地上)が実施され、1996年7月まで46回の核爆発を伴う実験が行われた。中国は、大気圏内での核実験を禁止する1963年の部分的核実験禁止条約(PTBT)に調印していないが、1992年から地下核実験に移行し、5本の坑道が整備されてきた。
2017年には、中国がロプノール核実験場の施設を新設・改修する動きが捉えられており、遅くとも2021年には、光学衛星画像によって地下核実験のための新たな水平坑道が掘り進められる状況が確認されている。
今回、合成開口レーダー(SAR)を用いた衛星画像によって、垂直坑道が並ぶ領域において種々の建設作業が継続されてい可能性が確認された。
2022年には、画像A、BおよびEの坑道が稼働状態にあると分析されていた。今回のSAR画像を見ると、画像AおよびBの盛り土の境界線が強く反射して(エッジが立っていることを意味する)おり、きれいに整地された状態が維持されていることが理解できる。これらに比べて、画像CおよびDの盛り土の輪郭には崩れている部分もある。
この他、画像Aの坑道入口および建造物の土台はコンクリート等で整形された状態が維持されている。また、画像Bの盛り土上には強く反射する輝点があり、車両もしくはコンテナと推察されるが、4月に撮像された際と位置が異なっている。これら特徴は、画像AおよびBの坑道で何らかの作業が継続されていることを示唆する。
さらに、第5の坑道とされている画像Eを見ると、画像AおよびBと比較しても、坑道の前の広場および坑道に通じる道路の電波吸収率が高く(黒色が濃く表示される)、舗装されているかコンクリートが打たれている可能性が高い。未舗装でないということは、大型車両の通行の頻度が高いことを示唆する。
また、画像Eには、坑道前の広場の北西側に一辺約3メートルの矩形をした2つの強い輝点が認められるが、撮像時期によって個数が変化しており、坑道内での作業に用いる物資が集積されている可能性もある。2023年12月に撮像された光学衛星による画像では、坑道前の広場を車両が移動した跡が確認されている。坑道出口から少し薄い輝点が伸びているが、坑道内に通じるケーブル状の物体である可能性がある。
上述の作業継続の兆候は、中国による核実験再開の可能性を示している。中国最新型のICBMであるDF-41はMIRV化(多弾頭化)され、最大10発の子弾を搭載できるとされるが、核弾頭の小型化が十分でなく、実際には3発程度の子弾しか搭載できないとの情報もある。こうした状況から、核弾頭小型化のためにも中国が核実験を行う可能性は高いとする分析されている。爆発を伴う核実験を実施するのか、爆発を伴わない臨界前核実験とするのかについては見方が分かれている。中国は、少なくとも、核弾頭の高性能化と品質維持のためにも、臨界前核実験は実施すると考えられている。臨界前核実験は包括的核実験禁止条約(CTBT)でも禁止されていない。
中国はCTBTを批准しておらず(エジプト、イラン、イスラエル、米国も未批准)、PTBTにも調印していない。そもそも、CTBTは未発効である。そのため、中国が地下核実験を行ったとしても、直ちに国際法違反には当たらないが、米ロの警戒を高め、米中ロの核抑止のバランスを崩す可能性がある。