コメンタリー

2024 / 12 / 07 (Sat.)

国際ワークショップ「東シナ海対話フォーラム」の意義と展望 ―東京・沖縄・台湾のさらなる相互理解・協力のために―

1.実施概要と全体評価

2024年11月22日(金)、東京大学先端科学技術研究センター創発研究オープンラボ(略称ROLES、主宰者:池内恵・東京大学教授)、および、ROLEが組織する「ユーラシア諸地域の内在論理」研究会(座長:川島真・東京大学教授)の主催により、「東シナ海対話フォーラム」(以下、「フォーラム」と略記)が東京大学駒場Ⅱキャンパスで開催された。企画提案と開催補助は鈴木隆・大東文化大学教授が担当した。

本フォーラムは、東アジアの歴史とくに近代史をめぐる歴史認識や、安全保障問題を中心とする今日の地域情勢の評価などについて、東京・沖縄・台湾の研究者とメディア関係者が率直な意見交換を行うとともに、将来における長期的な人脈形成の場となることを目指して開催された。研究報告を行うパネリストを含め、会議全体の参加者は約15名で、このうち複数名が日本のメディア関係者であった。

本フォーラムは、「午前の部」と「午後の部」の二部構成を採用して実施された。「午前の部」では、単独講師による英語での基調講演と、それに対する参加者の質疑応答がなされた。「午後の部」では、東京・沖縄・台湾からの参加者のうち、複数名によるパネリスト報告が発表されたのち、これを議論の材料として同じくフロア参加者全員での質疑応答と議論が行われた。このように形式の異なる討論を通じて、参加者全員の活発な議論と相互理解を促進した。

会議終了後に寄せられた感想では、参加者の多くが、今回の会議が東京・沖縄・台湾の三者間の相互理解にとって一定の意義があったことを承認するとともに、次年度以降の継続の必要でも同意した。


2.会議の開催趣旨、各セッションの議論の要点

(1)趣旨
21世紀に入って以来、国際社会では、既存の国際・地域秩序に対する中華人民共和国の挑戦的行動が目立つようになった。1つのきっかけは、2007~2009年のリーマンショック前後の時期に、当時の胡錦濤政権が自国の外交方針を転換して、従前の協調主義的外交から、周辺諸国・地域との摩擦や対立を恐れず、領土と海洋権益をめぐる現状変更を意図した外交・軍事活動を推進するようになったことであった。

さらに、胡錦濤の後任として2012年に成立した習近平指導部は、胡錦濤の方針を引き継ぎつつも、次の2つの点で、前任者とは異なる姿勢をみせている。

第一に、「台湾問題の解決」、すなわち、中華人民共和国による台湾併合への強い意欲を示し、平和的・非平和的手段の両方の政策が強化されている。「両岸融合発展」のかけ声のもと、大陸の福建省を中心に台湾との経済・社会関係の緊密化が推進されるとともに、台湾侵攻のための軍事能力の向上が図られている。

第二に、沖縄県に対する習近平の個人的関心を踏まえて、沖縄県への中国側の政治的接近が積極化している。これらの活動の狙いが、①尖閣諸島の領有権問題や沖縄帰属問題をめぐる反日本政府の世論喚起、②在沖縄米軍基地や自衛隊の南西シフトをはじめとする抑止能力の妨害を企図している可能性は否定できない

こうした現状を踏まえ、本フォーラムでは、東アジアの歴史とくに近代史をめぐる歴史認識や、今日の地域情勢の評価や問題などについて、東京、沖縄、台湾の研究者やメディア関係者が一堂に会して率直な意見交換を行うとともに、将来における人脈形成の場とすることを目指す。


(2)各セッションの議論の様子

a)「午前の部」
「午前の部」では、日本と米国における新政権発足という絶好のタイミングを踏まえて、日本の新聞記者による英語講演が行われた。テーマは、石破茂首相のリーダーシップのもとでの日本の対米国・対アジア外交である。

講演では、①総選挙後の日本政治と石破政権の特徴、②大統領選挙後の米国政治の状況とトランプ次期政権の展望、③日米関係における沖縄問題取り組みの経緯、③石破指導部の対アジア(中国、台湾、東南アジア)政策の要点などについて、包括的な分析が加えられた。とくに、トランプ政権の外交方針や台湾有事に関する日本の対外政策の見通しが示された。

講演に対して、東京・沖縄・台湾の参加者からは、①自民党内の派閥と台湾政策との関係、②いわゆる「アジア版NATO」構想の内実とアジアにおける集団安全保障体制の将来像、③台湾海峡と南シナ海に対する日本のコミットメントの見通しなどについて質問がなされた。

「午前の部」の様子


b)「午後の部」
「午後の部」では、以下に挙げる2つの議題について、各2名のパネリストから報告がなされたのち、それぞれ、フロア参加者を交えた質疑応答と意見交換がなされた。

第一テーマは、「東シナ海情勢をめぐる日本、台湾、中国の認識」である。一人目の台湾人の報告者からは、第二次大戦後の中華民国(台湾)の沖縄・琉球政策の歴史的展開が説明された。これによれば、戦後台湾では沖縄・琉球政策というものは、単独で重視される存在ではなかった。すなわち、対米依存という枠組みのなかで、終始、沖縄が位置づけられてきたことが明らかにされた。二人目の日本の報告者は、習近平政権の台湾政策と、それに関連した習近平個人の台湾・沖縄認識の特徴を解説した。報告者は、日清戦争の敗北など、日本と中国の近代史をめぐる歴史認識と領土観念が、習近平の台湾・沖縄政策に反映されていることを指摘した。
第一テーマの議論の様子


第二テーマ議題は、「台湾海峡安定化のための防衛・抑止力整備の現状と課題」である。まず、沖縄在住の日本人識者が、自衛隊の「南西シフト」と米軍基地問題をめぐる沖縄県の住民感情について、現地での観察を踏まえた知見を提供した。続いて登壇した台湾人研究者は、台湾海峡における中台の軍事対峙の状況と台湾側の対応を解説した。中国による台湾への軍事的圧迫は強まっており、最近の中国軍の演習は「戦場の統制=台湾封鎖」を目的としたもので、実際の有事でもそれが起こる可能性は高い。同時に、中国軍の行動により、台湾海峡だけでなく、第一列島線全体が緊張状態に置かれおり、それへの対応が喫緊の課題であることが強調された。

参加者全員による質疑応答について、紙幅の都合上、第二テーマのそれを簡単に紹介すると、台湾の海上封鎖と与那国島との関係や、沖縄世論における中国の認知戦の影響の有無などについて質問があった。また、台湾側の識者からは、「日本はアメリカの同盟国であり、台湾海峡危機になれば日本も米国に協力せざるを得ないので、沖縄県民の不安を十分に認識していない、さほど問題視していない」状況が問題視された。
第二テーマの議論の様子


3.今回会議の総括と今後の展望
会議終了後に寄せられた感想では、参加者の多くが、本フォーラムの意義を肯定し、次年度以降の事業継続を希望する旨を述べた。これは、本フォーラムが東京・沖縄・台湾の三者間での相互理解の促進と人脈形成にとって、一定の意義があったことを示すものと思われる。

同時に、こうした成果は、おそらく、民間学術団体のROLESとその研究会の活動であったからこそ達成できたもので、「トラック2」の本領発揮といえよう。

さらに今回の会議では、東京や沖縄から複数のジャーナリストが参加するなど、人的交流の面でも、日本のメディア関係者とROLES活動、および、台湾人専門家との協力深化が図られた。

むろん、東京・沖縄・台湾間でのそうした相互理解と人脈形成の広がりは、一度や二度の会議ではその目的は達成できない。今後も長期継続が望まれる。この点、来年度は、沖縄または台湾での開催を計画している。その際には、研究者はもちろん、より多くの沖縄在勤のジャーナリストや、今回招待できなかった台湾人ジャーナリストを招請したいと考えている。

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