2023年5月19日、G7広島サミットに参加した各国首脳、ならびにミシェル欧州理事会議長、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が、揃って広島の原爆慰霊碑に献花した。一行は原爆資料館の視察と、被爆者との面会も行った。カナダのトルドー首相は、「展示内容をじっくり見たいと希望し」、単独で原爆資料館を再訪したとも伝えられている
[1]。これら一連の出来事が強い印象を残した一方、G7で打ち出された核軍縮・不拡散政策である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」、通称「広島ビジョン」に対しては、核抑止の肯定などを理由に、被爆者団体等から失望の声も上がった
[2]。実際、岸田文雄首相が目指す「核兵器のない世界」への道程は、まだ遠いように思われる。2023年現在、世界には1万2,5000発あまりの核弾頭が存在しており
[3]、ロシアによる新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction Treaty: New START)の履行停止、北朝鮮、イランの核開発問題などにより、先行きは不透明である。
G7広島サミットに至るまで、岸田政権下の日本はどのように核に向き合ってきたのか、そして「広島ビジョン」の発出を経て、これからどうしていくべきか。本稿は、岸田首相の核問題に関する姿勢、岸田政権下における日本のこれまでの核軍縮・不拡散政策を整理し、また今後の展望について考える。
(続きは本文をご覧ください)
[1]「カナダ トルドー首相 G7広島サミット最終日に原爆資料館再訪」NHKニュース、2023年6月8日。〈https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230608/k10014093501000.html〉(2023年9月8日最終アクセス。以下全て同様。)
[2]「G7広島サミット 被爆者団体は、首脳の資料館視察は評価、「広島ビジョン」の核抑止論肯定には失望」FNNプライムオンライン、2023年6月8日。〈https://www.fnn.jp/articles/-/538546〉
[3]米国科学者連盟(Federation of American Scientists: FAS)の推計では、2023年3月時点での世界の核弾頭数は12,512発(うち、現役のものは9,576発)。Hans Kristensen, Matt Korda, Eliana Johns and Kate Kohn, “Status Of World Nuclear Forces,” Federation of American Scientists, 31 March 2023.〈https://fas.org/initiative/status-world-nuclear-forces/〉