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田中周「【日本外交への提言】信頼できるパートナーとしての日本―コミュニティ開発を中心とする中央アジア外交の展開」

「Japan's Strategy in Central Asia」発信と「中央アジア+日本」サミット開催による関係強化

 中央アジアはロシア、中国、そして慢性的に政情不安定なアフガニスタンの間という戦略的要衝地に位置する資源豊富な地域である。過去 20 年にわたって中央アジアの地域主義は、ロシアと中国の強い影響下に置かれてきた。しかし、2021年のアフガニスタンでのターリバーンの復権と2022年のロシアによるウクライナ侵攻が重要な分岐点となり、中央アジアの安全保障環境は急速に変化している。中国の影響力の拡大に伴って中央アジア諸国は、単一の大国が地域における覇権国となることを防ぐために「マルチ・ベクトル外交」を実施し、2018年に発足した中央アジア国家元首協議会議を中心に内発性の地域主義が台頭している。一方で中央アジアは中ロの裏庭にありながらも、日本が影響力を発揮することのできる地域である。
 このような状況下で、日本は中央アジアの「マルチ・ベクトル外交」の方針に則って、対中央アジア外交を調整する必要が生じている。中央アジア諸国の独立以降、日本外交は(1)1996年の小渕恵三衆議院議員団長の「中央アジア訪問ミッション」を皮切りとした、1997年の橋本龍太郎首相の「シルクロード外交」の展開およびADBを梃子とする「中央アジア地域経済協力(CAREC)」の設立、(2)2004年の小泉政権下での「中央アジア+日本」対話の枠組みの開始、(3)2015年の安倍政権下での「質の高いインフラ投資」イニシアティブ、日本企業の中央アジア進出を支える「Made by Japan in Central Asia」の推進といった地域外交を繰り広げてきた。ウクライナ侵攻に伴うロシアの影響力低下の結果として、中央アジア諸国は各国・各地域との間で「中央アジア+1」のプラットフォームを活発化させるなかで、日本は「中央アジア+日本」対話の枠組みを格上げし、首脳会議を実現し制度化するべきである。
 そのために、まず日本の中央アジア地域に対する包括的戦略を明確にする「Japan's Strategy in Central Asia」を発信し、これに基づいて第一回「中央アジア+日本」首脳会議を実現する。この戦略の主目標は、民主主義、グッド・ガバナンス、イコールパートナーシップといった価値観に基づく中央アジアの持続可能な開発を支援し、日本との貿易と投資を拡大することにある。この目標を実現するために次の3つの方針を定める。第一は、安倍政権下の「質の高いインフラ投資」イニシアティブと日本企業の中央アジア進出を支える「Made by Japan in Central Asia」の継続。第二は、JICAを中心とする開発援助の拡大(詳しくは後述)。第三は、EUとの戦略的協力に基づく中央アジア支援の推進(詳しくは後述)。第一回「中央アジア+日本」首脳会議の開催時に、「Japan's Strategy in Central Asia」に基づく戦略的パートナーシップに中央アジア諸国が調印し、大きな戦略的見取り図と具体的なアクションプランを示すことに成功すれば、強力な国際的インパクトが生じる。
中央アジア諸国首脳(提供:KAZAKHSTAN'S PRESIDENTIAL PRESS SERVICE/AFP/アフロ)

JICAを中心とする開発援助の拡大

 日本の中央アジア戦略の一つの骨子として、JICAを中心とする開発援助プロジェクトの中央アジアでの活用を提案する。
 第一に、技術協力プロジェクトの拡大である。中央アジア諸国は、化石燃料から脱却して、経済の多角化、グリーンエコノミー、デジタル化を中心とする開発戦略を取り入れようとしている。したがって、これら中央アジア諸国のニーズを満たすために、JICAの技術協力プロジェクトと開発計画策定プロジェクトを中央アジアで拡大すべきである。例えば、JICA/JSTのSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)を中央アジア諸国で拡大/強化する。
 第二に、人材育成プロジェクトの拡大である。中央アジア諸国の開発戦略は産業振興の推進に重きを置いており、人材育成を非常に重視している。したがって、開発途上国におけるビジネス・イノベーション創出に向けた起業家支援活動として、2020年に始動したJICAのProject NINJA(Next Innovation with Japan)の活用が期待できる。
 第三に、PPP(Public Private Partnership)の拡大である。JICAは円借款スキームに基づいた途上国におけるPPPプロジェクトに実績があり、自国が抱える開発課題を解決したい途上国政府と海外展開を望む日本企業の双方に利益をもたらす事業を展開してきた。このPPP支援プログラムを通じて、日本企業の中央アジア進出の拡大を目指す。
 最後に、以上のJICAの各種プロジェクトと並行して、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行(EIB)間の協調融資を強化し、特に中央アジアの気候変動レジリエンス、再生可能エネルギー、e-ガバナンス化支援に関わるプロジェクトを支える。
ウズベキスタン ブハラ(写真:アフロ)

EUとの戦略的協力に基づく中央アジア支援の推進

 2007年にEUは中央アジアに対する初の地域戦略を採択し、その後約10年の経験に基づいて2019年には新たな中央アジア戦略を策定した。さらに2025年4月に開催された初のEU・中央アジア首脳会議では、両地域間の関係を戦略的パートナーシップに格上げすることに合意した。EUの中央アジア戦略に通底する価値観は、日本のそれと共通点が多い。特に2019年に日本とEUはエネルギー、デジタル、運輸、人的交流をはじめとする分野における協力を第三国・地域で実施する「持続可能な連結性と質の高いインフラに関するパートナーシップ」を締結した。この枠組みを活用して、日本は志を同じくするパートナーであるEUとの戦略的協力に基づく中央アジア支援を推進するべきである。
 近年、ロシアのインフラを迂回する貿易・デジタル接続ルートとして期待される「中央回廊(the Middle Corridor)」は、中央アジアから欧州に通じる要路として、その開発支援の重要性が着目されるようになった。したがって、欧州では中央アジア支援の戦略的価値が高まっている。日本はこの機を捉えて、EU諸国および欧州企業との協力のもとでICTインフラ整備を始めとする中央回廊開発支援に積極的に参画するべきである。
クルプサイダム キルギス(写真:アフロ)

 上述のとおり、日本は中央アジア諸国のマルチ・ベクトル外交が求めるパートナーの一角を占めるために、バイラテラルな関係にとどまらずに中央アジア諸国とマルチラテラルな戦略的パートナーシップを結ぶ必要がある。加えて、中央アジア諸国の開発戦略に応じるためにJICAを中心とする開発援助プロジェクトを様々な分野で進め、中央アジアのローカルコミュニティ・レベルで日本のプレゼンスを高め、信頼できるパートナーとしての地位を確立する必要がある。さらに、志を同じくするパートナーであるEUとの戦略的協力を中央アジアで強化するべきである。