本稿では、10月5~12日にかけて出張した中央アジアでの現地調査について、以下のとおり報告する。
旧ソ連中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンおよびウズベキスタン)は、独立後30年以上が経過した現在でもロシアとのつながりが強く、それは政治経済にとどまらない幅広い領域に及んでいる。加えて近年では中国の経済面での進出が目覚ましく、その影響力が安全保障面にも及ぶのではと指摘されている。そしてロシアによるウクライナ侵攻後は、中央アジア諸国とロシアとの「距離感」や、中国によるこの機に乗じた「ロシアの裏庭」へのさらなる進出が議論の的となっている。
筆者が参加している研究会「広域中央アジアの重畳化する安全保障環境」は、「拡大中央アジア」(GCA)という概念に着目している。筆者の理解では「GCA」は、上述の5カ国とそれ以外とを隔てる旧ソ連の境界を越える、地理的広がりや民族的、文化的紐帯といった視点から、中央アジアを捉えなおそうという概念である。今回の現地調査からは、国力の限界や、依然として「地政学的」条件に拘束されつつも、それでもそれらの条件の範囲内で最大限対外関係を多様化しようという、地域内アクターの動向が垣間見えた。そしてそれは、旧ソ連の境界を所与のものとしつつ、その境界を内側から押し広げようとするものであり、「GCA」に対する新たな解釈を求めているかのようであった。
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