東京大学先端科学技術研究センター創発戦略研究オープンラボ(ROLES)は、9月に研究会座長級のメンバーからなる訪問団を組織し、ハンガリーの官庁・諸研究機関との戦略・政策対話を行った。ROLESがハンガリーに訪問団を送るのは今回が初めてである。訪問団メンバーは以下の通りであった。
 
池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授(ROLES代表)
川島真・東京大学大学院総合文化研究科教授(研究会「ユーラシア諸地域の内在論理」座長)
東野篤子・筑波大学人文社会系教授(研究会「東欧、中・東欧、バルカン諸国の自由・民主主義の帰趨」座長)
国末憲人・東京大学先端科学技術研究センター特任教授
小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター准教授(ROLES副代表)
合六強・二松学舎大学国際政治経済学部准教授(「外交・安全保障世論調査(SAFER)」プロジェクト座長)
石川雄介・地経学研究所(IOG)研究員/デジタル・コミュニケーション・オフィサー

今回のハンガリー訪問は、9/8-9の2日間に渡って行われた。以下、主な対話の内容を紹介してみたい。
 
ウグロシュディ・マルトン(Ugrosdy Marton)首相府次官補との対話(9/8)
初日となる9/8の調査は、ヴィクトル・オルバン首相の補佐官を務めるウグロシュディ・マルトン氏との面談から始まった。ハンガリーにおけるロシアや中国の位置付け、ウクライナ戦争の見通し、NATOの中でのハンガリーの立場等に関して、ハンガリー政府の見解に接することができた。特に「親中」「親露」とされがちなハンガリーが、主観的には独自のリアリズムに基づいて大国との関係性を構築しようとしている点がROLES側に取っては印象的であった。
 
国立行政大学(Ludovika University of Public Service)訪問(9/8)
その後、ハンガリーの研究者と政策実務家が集まるシンクタンクや、公務員への教育研修の機能を持つ国立行政大学(Ludvika University of Public Service: LUPS)を訪問し、同大学国際本部(Directorate General for International Affairs (NFI)  of the Ludovika University of Public Service)および附置されたシンクタンクであるジョン・ルカーチ戦略・政治研究センター(John Lukacs Institute for Strategy and Politics)との戦略・政策対話をラウンドテーブル形式で行った。
ハンガリー側で出席した大学・シンクタンクの研究者・実務家の発言で特徴的だったのは、ロシア・ウクライナ戦争に対するハンガリーの立場を、規範や国際秩序の問題としてよりも、ハンガリー一国の政治的利害に関わる問題として捉える視点である。ハンガリー側はウクライナとの国際関係を、自国の国内社会問題の延長として、民族主義的観点から捉える傾向が見られた。ウクライナにおけるハンガリー系少数民族の扱いに関してハンガリーが強い不満を持っている点がしばしば言及された。
 他方、ロシアとの関係性については、ハンガリーがエネルギー供給の多くをロシアに依存していることなどから、リアリズムに基づいているとされた。この点は、ウクライナとの(険悪な)関係が「エモーション」に基づくとされたのと対照的である。
 国立行政大学ジョン・ルカーチ戦略研究センターから公表されたラウンドテーブルの概要は下記より閲覧できる。
Hungarian-Japanese Dialogue

ハンガリー国際関係研究所(HIIA)訪問(9/9)
訪問2日目には、ハンガリー国際問題研究所(HIIA)を訪問して政策・戦略対話をラウンドテーブル形式で行った。HIIAの研究者に加え、当地のシンクタンクやウクライナのシンクタンクの専門家も参加し、ROLES訪問団との間で、それぞれの立ち位置からの国際情勢認識と評価のすり合わせが行われた。
 1日目と同様に、ハンガリー側は主要な議題としてロシア・ウクライナ戦争を取り上げた。ここで示された見解は国立行政大学におけるものとの共通性が高く、ウクライナにおけるハンガリー系住民の取り扱いに対する強い不満や、ロシアへのエネルギー依存の現実が強調された。
アジアとの関係性においては「ロシアが侵略に成功すればアジアに波及する」という考え方には懐疑的であるとの見解が示された。
 ハンガリー国際問題研究所の公式Facebookに訪問の概要が記録されている。
本訪問団はハンガリーの後にエストニアを訪れ(9月10−11日)、現地シンクタンクと複数回のラウンドテーブルを開催した。ハンガリーとエストニアは、対ロシア・ウクライナ認識において際立って対照的な立場を示した。非公開のラウンドテーブルで、それぞれの国の専門家から固有の現状認識と意見表明を示されたことで、訪問団は対欧州の認識を深め、多角化する機会を得た。

ハンガリー訪問中の面談・議論の機会において、「ハンガリーは欧州で、独自の、あるいは孤立した立場にいるのではないか」という問いかけに対し、ハンガリー側の回答に共通するのは、必ずしもハンガリーの立場は孤立ではなく、むしろ次の段階・時代においては主流派となりうるという確信の表明であった。また西欧以外の、いわゆる「グローバル・サウス」的な勢力を含む、世界政治において多数を占め台頭する勢力や、米国の保守派やトランプ政権に近い有力な勢力と、ハンガリーの立場は軌を一にしているため、ハンガリーの立場は決して特異でも少数派でもない、という旨の認識を、それぞれの有識者がそれぞれの方法で明確に主張していたことが印象的であった。

ROLESメンバーによるハンガリー訪問を招請し、陰に日向に渡航を支援していただいたのみならず、多忙な用務日程の合間に縫ってラウンドテーブルに参加し、訪問団の意義をハンガリー側に伝えてくださった小野日子駐ハンガリー大使(当時)、および篠木菜月専門調査員をはじめとした在ハンガリー日本大使館の館員の皆様に、厚く御礼を申し上げる。