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2025 / 04 / 30 (水)

ROLES活動報告(2025年4月)

ROLES活動報告(2025年4月)

※本稿は、ROLESNEWSLETTER No.5に編集後記として掲載されたものである

海外からの賓客の迎え入れと、セミナー・講演・シンポジウムが相次いだ4月が終わろうとしている。4月2日はニューヨーク大学アブダビ校のハニーン・シェハーデ客員助教授がRCAST Security Seminarで講演、「キリスト教シオニズムの米外交への影響」というElephant in the Room的な大きな問題、日本の欧米文脈の国際政治研究では避けられるか、そもそも正確に知られていないテーマについて話してくださった。中東研究としても米国研究としても最先端のテーマ受け止めるのは、東大駒場リサーチキャンパスの先端研にとって最も相応しい。 

4 月7日はアブダビとエジプトで民間シンクタンクグローバルセキュリティ防衛研究所(IGSDA)を主催するサイイド・ゴネイム退役少将・博士の例年の如くの来日に際して、またも先端研ROLESを訪問先としてくださった。イスラエルと米国を中心に、イランとトルコが重要な位置を占める中東の安全保障環境の流動化をセンシティブに捉えた包括的な報告があった。その後の中東・イスラエル・米国の動きを的確に予想したゴネイム少将の慧眼は今回も十分に発揮された。「チャタムハウス・ルール」でやっているからこそ話してくれる内容なので、詳細に内容を明かすことはできないが、研究成果・報告で随所に反映させて還元していきたい。 

4 月8日に予定されていた石油輸出国機構(OPEC)事務局長の来日・講演は講演者の公務が急遽入り、月初め早々にキャンセルとなった。おりしも「トランプ関税」のあおりを受けて石油市場も乱高下する中で、事務局長が日本を訪問していられる可能性はかなり低いと予想して、内心「受け身」を取れるように準備していたため、キャンセル自体については驚きや困惑はなかった。むしろ国際情勢の鼓動・血流を生で感じられて刺激になったとさえいえよう。

 4 月20日はエストニアのタルトゥ大学から訪問団を受け入れ、共催ワークショップ「ユーラシアの認知と記憶の前線:ロシア・中国・拡大中央アジアの歴史と現在」を開催して、日本からは川島真先生が中国政治外交における歴史認識と宣伝の問題をレクチャーしていただき、エストニアからはウラジーミル・サゾーノフ准教授によるロシアの対エストニア認知戦が生々しく議論された。座長の東野篤子・筑波大学教授のお手配で、秋田浩之・日本経済新聞本社コメンテーターによる包括的なコメントは、専門的な諸報告を、日本がバルト諸国と中国・中央アジア諸国に関与する際の戦略的な見取り図の中に位置づけて評価し質問を投げかけるもので、ワークショップの学術的なだけでなく政策的な意義を高めるものだった。 

4 月24日には(公財)日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)との共催で、国際セミナー「海底インフラとインド太平洋の海洋秩序―地政学から見る安全保障の最前線」を実施し、旧知で過去に東大先端研で講演していただいたことのある、ブレンドン・J・キャノン・ハリーファ大学教授(UAEアブダビ)を基調講演にお迎えし、ジャガナス・パンダ・安全保障開発政策研究所(スウェーデン)ストックホルム南アジア・インド太平洋センターの両者に、東大先端研のセミナールームに戻ってきていただいた。ヘン・イクァン東京大学公共政策大学院教授・未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット長や、ダテシュ・パレルカル・ゴア大学国際地域研究大学院(SIAS)助教授・学科長/インド安全保障・経済・技術研究所(RISET)共同創設者、といったグローバルに活躍する才能と新たに巡り会えたのが、こういった国際会議を主催・共催する醍醐味である3月のエストニアICDSとのラウンドテーブルに続いて、今回も北川敬三・元海上自衛隊一等海佐(現・慶應義塾大学SFC教授)に念入りに準備をしたコメントと質疑を行なってもらえたことは何よりの幸せである。 

4 月25日には長年の研究協力関係にある宮本悟・聖学院大学教授/東大先端研客員上級研究員の主催で、来日中の康仁徳(カン・インドク)・元韓国統一部長官を迎えたRCASTセキュリティ・セミナー「情報機関の役割とその活動」を開催した。在京の主要メディアの記者・番組プロデューサーたちが集まり、朴正煕大統領の元で韓国中央情報部(KCIA)創設期から情報分析官として活動(1961-1978年)し、極東問題研究所理事長を経て、金大中大統領に請われて統一部長官に就任した康先生に、朝鮮半島の戦後史における情報機関の情報分析活動と宣伝工作活動について非公開の質疑応答が活発に行われた。 

同時に4月には、前年度の活動の総決算を行い詳細で大部な報告書・記録を予算元に出す締め切りがある。また、さらに以前の年度については会計検査院の監査も入ることがある。シンクタンク事務が最も忙しく神経を使う時期である。 

これらと並行して、専任教員は部局(先端研)や東大本部の行政負担や、先端研が大学院工学系研究科で受け持つ先端学際工学専攻の授業を受け持っている。そして各学部・大学院から依頼される学内非常勤の講義を受け持って、他キャンパスとの間を頻繁に往復しながら新学期の授業を忙しく立ち上げ、諸手続きを済ませなければならない。ROLESを運営する「シンクタンク研究者・運営者」としての顔と、通常の「大学教員」としての顔をしょっちゅう使い分けなければならない。なかなかの難事である。しかし「大学発シンクタンク」を謳うからにはこれらを両立させなければならない。

 先方の都合で4月に相次いで来日した、長年の研究仲間による講演やセミナーが一通り終わり、連休が開けてからは、今度はROLES側が新年度の予算で企画し、主導的に仕掛けていく国際会議・セミナーが国内でも海外でも活発に始まる。現在ROLESが受け入れている外交・安全保障調査研究事業費補助金は、シンクタンクの助成により、政府・官庁とは別のトラックIIあるいは1.5トラックの政策協議の場を作り出すことを重要な目的とする。3年間の予算の3年度目で最大限の規模、最高の質で実現できるか、事業の成否はここにかかっている。そのための人員増強も行なっている。

 3 年間の大型予算の実施の総決算、あるいは2020年のROLES創設以来の6年間の結論を出すにあたってまずは5月31日に、先端研と生研(生産技術研究所)が共に開催する「東大駒場リサーチキャンパス公開2025」の大型シンポジウム「外交・安全保障シンクタンクはどこへいく? ROLESの挑戦と日本の課題」を開催する。ここで、ROLESは何をどのようにやろうとしてきたのか?どれだけできたのか?何が分かったのか?これから何ができるのか?といった課題とさらなる問いかけが、体系的に示されることになるだろう。ここには民間企業や一般財団法人を基盤としたシンクタンクや、公的予算の出元となる官庁から、幹部職員が登壇し、遠慮も忖度もなく、「あるべきシンクタンクとは何か、どこまでできていて、どこからはできていないか、今後どうすればいいか」が赤裸々に語られることだろう。大学を拠点にしているからこそできる客観化・相対化・理論化が図られる。 
(池内恵・先端研教授/ROLES代表)