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2025 / 04 / 11 (金)

徳永連携研究員がモスクワで講演

ROLESの徳永勇樹・連携研究員が 、モスクワ市内の大学3か所および国立図書館1か所の計4会場で、「京都の伝統工芸を通してみた日本文化」というテーマの下、ロシア語で講演した。徳永連携研究員は2022年から2023年にかけて「京都の伝統工芸の持続可能性」というテーマで調査を実施。2024年からは、調査の過程で得た日本文化についての理解を、内外の大学で講義をする機会を得てきた。
今回の会場は、 2月24日高等経済学院(高等部) 、同日ロシア国立図書館 、27日モスクワ国立言語大学、3月4日モスクワ大学。
徳永連携研究員は講演でまず、日本の伝統工芸の概略を説明した。 
京都には千年を超える都の歴史があり、今日、漆芸、陶芸、染織、木工、金工など多岐にわたる。68種の指定伝統工芸(京都市指定の伝統産業品74品目のうち、工芸品以外の6品目を引いた数)が存在し、その中には京都以外の街に伝わり、今でも地域の伝統工芸として育まれることになったものも多い。一方で、そうした伝統工芸の多くは需要減少に伴い、継ぎ手、原材料、道具が不足し、継承の危機にある工芸品も少なくないという。
各会場ではスライドを用いて、京都の伝統工芸調査や文化交流企画についても説明した。
モスクワ大学では先方の要望により、日本の若者が関心を持つ社会問題のテーマで、関連するデータや個人的な所見を紹介した。 大学生の参加者からは、「今の日本の若者何を考えていて、何に悩んでいるのか」といった若い人ならではの質問もあった。 
会場ごとの反応は以下の通り。 

(1) 高等経済学院(高等部) 
高等経済学院付属高校の生徒と教職員約30名に対し講義を行った。多くは英語以外に第2外国語を学んでおり、中には日本語や中国語を学習していて、高校生な
がら流暢な質問を日本語で投げかけられた。また、専門的に日本の伝統衣装を学ぶ学生もいて、伝統工芸の素材についての具体的な質問や、茶道や華道のような無形の文化の精神性についても質問が寄せられた。他にも「ロシアの文化では何が関心あるか」「日本の若い人はロシアについてどう考えているのか?」と言った、外国人から見た自国について質問も投げかけられた。

(2) ロシア国立図書館 
ロシア国立図書館の職員及び一般参加者約50名に対し講義を行った。一般参加者の約半数は日本語を勉強し、日本に来たことがある人が占め、日本に留学経験を持つ人
もいた。また、他にも、墨絵のアーティストや、イコンの画家等、芸術に関心のある参加者も見られた。
ロシア国立図書館で講演する徳永連携研究員
 
(3) モスクワ国立言語大学 
大学の職員及び学生約25名に対し講義を行った。学生ほぼ全員が日本語を勉強していたこともあり、大学側の希望で冒頭10分程度、学生の代表が通訳を請け負ってくれ
た。日本に関心の高い学生が多かったためか、講演後、数人の学生が「日本に留学して実際に職人の世界を見たい」と声をかけた。その一方で、「日本では伝統文化が残っていると思っていたが、ロシアと同様に継承に苦労していると知って驚いた」というコメントもあるなど、日本についてのイメージと現実の乖離に驚く声もあった。また、「せっかく日本語を勉強しているのに使う場所や仕事がない」という率直な感想もあった。
モスクワ言語大学での講演
(4) モスクワ大学 
日本語学習者や日本留学経験者約40名が来場。ロシアにおける日本関連イベントに興味を示す方が多かった。質疑応答では、「経済性と文化的価値を両立する
にはどうすればいいのか」という質問が上がり、また、質問者が自ら、ロシアの伝統工芸もまた非常に厳しい状況にあることを、例を挙げて説明した。徳永連携研究員が実施する海外との文化交流に共感する声が多く寄せられた。
モスクワ大学で講演する徳永連携研究員

■ 徳永連携研究員のコメント 
今回の一連の講演活動を通じ、改めてロシアの日本に対する並々ならぬ関心を感じた。ロシアの方々は日本人以上に自国の文化を大切にする気概がある。一方で私自身も、ロシアの伝統文化における課題と展望を聞いた上で、日本の伝統文化の現状と課題を相対的に考える機会になったことは大きな収穫だった。 
また、現在の情勢下、欧米諸国や日本の企業やブランドが軒並み撤退し、またルーブリの下落や各国との直行便停止を受け、この数年間は海外に出かけるロシア人はかなり減ったと聞く。そのためなのか、外国人、特に、文化について独特な歴史を持つ日本人がロシア語で講演をする機会はほぼないためか、外の世界の「生きた情報」を求めて、沢山の人が講演会に来てくれたのは素直に嬉しかった。人や国の間に政治的・経済的な距離が生じている時代でも、文化の分野は依然として対話の扉を開く力を持つ。私が紹介した日本の伝統工芸が、ロシアの方々にとって、ただの珍しい話題で終わらず、双方の文化的な相互理解を進める一助となれば幸いである。 次回はぜひ、実演や共同作業を組み込んだ企画を用意し、さらに踏み込んだ交流を試みたい。今回の講演で築いたネットワークを活かし、引き続き、日露両国の人々が「お互いの文化は意外と似ている部分もある」と再認識できるような、奥行きのある活動に挑戦していきたいと思う。 
今回の講演実施に際しては、アヤナ・サンジエヴァさんに講義のアポイント調整でお世話になった。また、高等経済学院のニコーリ・スキアシャンツさん、モスクワ国立言語大学のナターリヤ・ボナディクさん、ロシア国立図書館のダニール・オグネフさん、モスクワ大学のドミトリー・レヴァドヌィさんに貴重な場を提供頂いた。講義の準備に際してはヴェチェスラヴ・アルジャノフさんにロシア語の発音や内容について指導を頂いた。この場を借りて深く御礼申し上げたい。