昨年度に引き続き、今年度も徳之島国際ユースキャンプが徳之島の伊仙町を主な舞台として開催された。
今回はボスニアで政治社会的な分断の深まる3民族それぞれの代表的な大学(セルビア人のバニャルカ大学、クロアチア人のモスタル大学、ボシュニャクが中心のサラエボ大学)から学生が2名ずつ参加し、全行程を通じて仲間として互いに分け隔てなく過ごし、民族ごとの言語の呼び名(セルビア語、クロアチア語、ボスニア語)を使わないなど互いに配慮する様子が見られた。
「戦後社会を生きること」をテーマとしたグループワークでは、3民族の対立が政治的に煽られたものであり個人レベルには及ばないこと、戦争では3つの民族がいずれも苦しんだこと、3民族は言語や文化を共有しており互いをはっきり区別するものはないことなどが強調された。これら3大学の学生が交流する機会はほとんどないが、本キャンプはボスニアへの政治面での関与が大きい欧米ではなく、また3民族を隔てる3宗教(セルビア正教、カトリック、イスラーム)文化圏のいずれにも属さない日本をホストとしたことで、戦後社会という課題という分断に結びつくような課題に共に向き合うことができたのかもしれない。
参加者全員で徳之島にある三町(徳之島町、天城町、伊仙町)の教育委員会を訪問した。三町とも英語教育や遠隔教育に積極的に取り組んでおり、その取り組みを次年度のキャンプと連携させることが話し合われた。今回は伊仙町立犬田布小学校の児童と参加学生がスポーツなどを通じて交流し、またその交流から参加日本人学生と児童との遠隔英会話レッスンが計画されるなど、徳之島における国際教育推進への貢献が始まりつつある。
また、モスタル大学から参加したクロアチア人学生の協力で、モスタル大学との研究交流も進む見通しが立った。10月に西村明東京大学教授と立田由紀恵東京大学先端科学技術研究センター特任研究員がバニャルカ大学を訪問し、ROLESを介したサラエボ大学とバニャルカ大学との間の研究協力の計画を進めているが、これにモスタル大学も加えた3大学の連携へと発展することが期待される。
活動報告パンフレット(PDF)
【日程】2024年12月2日(月)〜12月8日(日)
【参加者】
1)学生(全行程参加12名、一部参加1名)
ボスニア・ヘルツェゴビナ
・アナスタシヤ・プラブシッチ(バニャルカ大学)
・ガブリイェラ・アセンティッチ(バニャルカ大学)
・ニキツァ・ブバロ(モスタル大学)
・ウラディミル・ベガル(モスタル大学)
・レイラ・ブルギッチ(サラエボ大学)
・アイヌル・カニジャ(サラエボ大学)
韓国
・キム・ジュニョン(江原国立大学校)
・坪井佑介(江原国立大学校)
日本
・菅原一花(東京大学)
・山村絢(東京大学)
・横森翼(慶應義塾大学)
・野末美樹(慶應義塾大学)
・成瀬茉倫(慶應義塾大学)*12月6-8日
2)教員・スタッフ
・ディーノ・アバゾビッチ(サラエボ大学教授)
・西村明(東京大学教授)
・犬塚悠太(東京大学大学院博士課程学生)
・立田由紀恵(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員)
活動詳細
12月2日(月)
日本、韓国、ボスニア側の参加者が羽田空港に集合し、鹿児島空港経由で徳之島へと向かった(時着)。到着後は夕食とともに自己紹介を行い、本キャンプに何を望むのかを話し合った。
徳之島空港に到着
12月3日(火)
10時から伊仙町歴史民俗資料館にて、ユースキャンプの開会式を行い、西村先生による主旨説明と開会宣言が行われ、伊仙町町長による歓迎の言葉をいただいた。その後現地カウンターパートの松岡氏により徳之島の歴史に関するレクチャーが行われた。レクチャーは南西諸島における徳之島の地理や歴史など基本的な情報から始まり、第二次世界大戦後の徳之島がアメリカの管理下に置かれていたこと、伊仙町出身の泉芳朗による奄美返還運動やその後の南西諸島の返還といった歴史について説明を受けた。近年には自衛隊とアメリカ軍の共同訓練なども行われるようになり、島民の不安が高まっているといった状況についても言及があった。その後質疑応答がなされ、島の生活状況やボスニアとも共有する闘牛といった文化的トピックや、軍基地に関わる島民の意識、そのほか南西諸島の人々のアイデンティティなどについての活発なディスカッションがあった。午後は伊仙町・天城町・徳之島町の徳之島三町すべての教育長を訪問し、来年度のキャンプにおける協力要請を行った。14時からは伊仙町教育長を訪問し、伊仙町における子育て・教育支援について質疑応答を行った。15時からは天城町教育長と面会をし、中学生との交換訪問等の国際交流教育活動についての説明を受け、キャンプとその活動との協力を検討することが話し合われた。16時から17時にかけては徳之島町町役場での挨拶を行い、当町のおけるICT活用、地域の歴史・文化を軸とした教育づくりに関する説明を受け、島外との交流などに関する質疑応答を行い、徳之島町の遠隔国際教育とキャンプとの連携の可能性について話し合った。
伊仙町教育委員会を訪問
12月4日(水)
10時から二つのグループに分かれ、事前に用意したスライドを用いてお互いに国の状況や戦争経験といったテーマについて話し合った。特に背景が複雑であるためボスニア・ヘルツェゴビナの宗教・民族的状況についての情報を共有しつつ、第二次世界大戦や朝鮮戦争中の韓国について、また、日本の参加者から親族のゆかりのある地域における戦争経験についても発表があった。午後からのセッションではプレゼンテーションで共有した内容を踏まえつつ、午前のセッションで得られた気づきや発見を徳之島の児童たちに伝えるため、発表スライドやその原稿の準備に取り掛かった。お互いの背景や前提知識の隔たりもあり、最初は苦労しつつも徐々に比較可能な点や平和に向けたメッセージについての議論が活発になされるようになっていった。
ディスカッションの様子
12月5日(木)
四日目は徳之島における宗教施設や記念碑を巡った。はじめに義名山神社を訪れ、明治期の廃仏毀釈といった近代日本の歴史的背景を学びつつ、実際の神社におかれている像(狛犬)や鳥居、この神社の歴史について西村先生や伊仙町町史編纂室室長の松岡さんから説明を受けた。その後母間カトリック教会を訪れ徳之島のキリスト教徒の数や信者たちの年代別の差など地域社会の抱える問題について質疑応答を行い、さらに鹿児島本土との、あるいは他国との国際的な連携について説明を受けた。昼食後は天城市の資料館、ユイの館を訪問し地域社会の歴史や暮らし、闘牛をはじめとした文化について見学した。最後に、戦時中は滑走路であった道路を通りながら戦艦大和の記念碑のある犬田部岬を訪れ、西村から記念碑建設の背景や近年の補修に関して説明を受けた。
犬田布岬の戦艦大和慰霊碑
12月6日(金)
午前中は4日のグループワークの続きを行った。概要はある程度固まっていたため、それをどのような形で発信するべきか、伝わりやすいプレゼンテーションはどういった形なのかをグループごとに模索しつつ、子どもたちにとって身近な事例を用いるべきだといった提案がなされた。昼は犬田部小学校を訪問し、昼食を児童らと一緒に取り、お互いの自己紹介を行ったり、一緒に体を動かして交流をした。15時からは再度グループで活動し、当日に加わった学生からのフィードバックを受けてここまでに作ったスライドの改善を行った。
発表の準備
12月7日(土)
これまでのグループワーク、ディスカッションをまとめ、14時から犬田部小学校で本ユースキャンプの成果発表を行った。二つのグループは韓国とボスニアの簡単な紹介、戦争や戦後社会の経験や平和の尊さについて発表した。一つ目のグループは、政治の影響から宗教に基づいて三民族が人工的に分断されている三民族の現状について説明し、グループワークの中で共有した平和に関わる様々な価値観を示した。二つ目のグループはバスでの移動中に通過した天城市にある秋利神大橋を枕として児童たちの関心を惹きつつ、民族間の架け橋となっているモスタルのスタリ・モストや、戦時中に破壊され戦後再建された韓国の漢江橋に関しても紹介し、平和の架け橋の構築、その重要性を児童たちに説明した。その後児童らと参加者で交流を行い、折り紙などの日本文化を体験してもらいつつ、英語や日本語の書き方を教え合った。最後は島唄が演奏され、奄美、徳之島の文化を実際に体験してもらう機会を得た。
キャンプで学んだことを犬田布小学校体育館で発表
12月8日(日)
8時過ぎに宿泊施設を出発し、空港で現地カウンターパートの方々と挨拶をしたのち10:25発の便で鹿児島に、そして12:50の便で羽田へ到着した。
ボスニアからの参加者がサラエボ空港で最期の記念撮影
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