ROLES活動報告(2025年5月)
※本稿は、ROLESNEWSLETTER No.6に編集後記として掲載されたものである
5月30-31日に「東大駒場リサーチキャンパス2025」が開催された。その一環として、31日の午後1時から3時に、ROLESを推進する3分野(グローバルセキュリティ・宗教分野、国際安全保障構想分野、国際比較政治変動分野)が共同で、シンポジウム「外交・安全保障シンクタンクはどこへいく? ROLESの挑戦と日本の課題」を開催した。国末憲人特任教授の司会で執り行われたこのシンポジウムでは冒頭で私が、ROLESを提唱し運営してきたグローバルセキュリティ・宗教分野を代表し「東大先端研ROLESの挑戦:達成と課題」と題した報告を行なって、日本における外交・安全保障シンクタンクの現状と望ましいあり方への道筋、というシンポジウムのテーマの提示と、ROLESとしての自己検証を行った。それに続き、松本太一橋大学国際・公共政策大学院教授(前・駐イラク特命全権大使/前・日本国際問題研究所ネットワーク本部長)、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授/地経学研究所(IOG)所長(オンライン講演)、そして山本文土 外務省総合外交政策局参事官が相次いで登壇した。さらにパネルディスカッションでは小泉悠准教授(国際安全保障構想分野)、中井遼教授(国際比較政治変動分野)のコメントに対して、講演者から活発に応答がなされた。手前勝手な感想だが、締まりのある、中身の濃い議論が行われたと思う。
このシンポジウムの講演・パネリストの陣営は、ROLESが東大先端研のプロジェクトとして実施されているからこそ、可能になったものといえよう。ROLESという、大学の部局の研究室のプロジェクトとして実施されており、公的予算の研究費によって運営されている「シンクタンク」と、国際文化会館という公益財団法人に設置され、企業のメンバーシップによって支えられた、確固たる組織を持ったシンクタンクであるIOGの、性質と色合いの違いは明瞭だった。そこに、元来は外務省系の財団法人として官庁の実施組織としての役割を担ってきた日本国際問題研究所や、官庁・政界とのつながりを深く持つ中曽根世界平和研究所での勤務経験を有し、中央省庁の情報部門の要職を歴任し、海外の有力シンクタンクとの交流も幅広い外交官が、大学に出向中の自由な立場から、日本の既存のシンクタンクの分析・政策立案能力や大学の地域研究に関して忌憚のない論評を加えた。そしてROLESの研究費として最大の部分を占める外交・安全保障調査研究事業費補助金を管轄する外務省総合政策局の参事官が登壇し、個人の見解として、シンクタンクを育成する立場からの政策意図や現状認識を述べる。見方によっては、幾重にも際どいことになりかねない組み合わせである。そこはかとない緊張をはらみながらも、議論は節度を持ち落ち着き、時にユーモアを交えながら、相互の尊重を保ち、異なる立場、異なる道筋での、共に目指す方向性と将来を模索した。
これが可能になったのは、ROLESが補助金の「受給団体」としての立場はあるものの、その運営母体としての大学の研究室が、学問の自由と自治を根幹の理念とした制度であり、その立ち位置から外交・安全保障シンクタンクに取り組んできたということに由来する。ROLESは、外交・安全保障シンクタンクについて、客観的・中立的な立場から評価検証する視点を持ちつつ、自らが提唱する固有のシンクタンク事業を実施している。ある種の「利害関係」の中にある主体と、自らの利害関係を含んだ現実を政治・行政・社会的現象として対象化し客観視する主体の二つを、ROLESは兼ね備えている。その後者の部分を担保するのが、東大という大学、先端研という部局であり、部局の中の「分野」研究室としての設立根拠である。
東大先端研が、生産技術研究所と共に、駒場リサーチキャンパス(駒場II)のキャンパス公開を主催し、その一環として開催したこのシンポジウムは、ROLESを、日本の外交・安全保障シンクタンク全体と共に、客観視し評価する機会であり、そのための指標や基準を見出そうとする試みだった。
(池内恵・先端研教授/ROLES代表)