池内恵教授のコメントが、9月5日付『産経新聞』朝刊に掲載されました。
テーマはアフガニスタン情勢で、
「混迷するアフガン、日本がすべきこと 佐藤正久/池内恵/宮家邦彦」『産経新聞』2021年9月5日(電子版には9月4日16:25掲載) アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンがガニ大統領の政権を簡単に崩壊させることができたのは、同政権が米国の軍事支援なしでは成り立たない体制であったことが原因だ。アフガンの大統領は、首都カブールの州知事のようなものだとささやかれたほどで、国全体を掌握する力や組織を持たない。米国の軍事力という強い後ろ盾によって政権を維持してきた。
バイデン米大統領が進めた駐留米軍の撤収が、政権に後ろ盾がないことを知らしめることになり、政権内から離脱者が出て政府軍も雲散霧消した。勢いづくタリバンは、実権掌握に向けて軍事制圧以外の手段を考えなくなった。結果、タリバンは各地の政府施設などを簡単に制圧し雪崩を打つように政権崩壊が進んだ。
今後の統治に関しタリバンはイスラム法に基づいて人権を守るとしているが、欧米の自由主義に基づく人権はかなり制約される。米国が世界に広めようとしてきた自由と民主主義の理念にとって打撃だ。人権侵害の事例が目に見える間は、欧米や日本はタリバンを認めて積極的に経済支援をしにくいが、タリバンと協力しなければ人道援助もしにくくテロを取り締まれないジレンマがある。テロが起きても米国は無人機攻撃で対処し、極力、国際問題にしないようにするだろう。
ただ、アフガンを拠点に難民流出やテロ拡散が大規模に生じると、再び国際問題にならざるを得ない。米国の同盟国などは、自由と民主主義をどう世界に広げるかを考え直して実践し米国を引き留めておくことが必要だ。日本は破綻した国の再建を軍事力以外の手段で支援してきた経験を生かし、国際協調を牽引する積極性を見せるべきだ。
またタリバンには、カタールに拠点を置き米国とも交渉してきた勢力と、パキスタンに支援されアフガンでゲリラ戦を戦ってきた勢力がいる。カタールの勢力は外交路線で交渉自体はできる。一方、国内勢力は頑強に米国や近代文明を敵視している場合もある。どちらの勢力が主導権を握るか分からない。イランや中露はタリバンを利用して米国に圧力をかけていくだろう。