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1955年8月29日
第1回重光・ダレス会談(1955年8月29日)
1955年8月29日に行われた、重光葵外務大臣・ジョン・F・ダレス(John F. Dulles)国務長官の第1回会談の記録である。日本側、米国側、そして日米両国の記録の対照表が掲載されている。
※本ページはまだ試験公開中です。資料の正確性には細心の注意を払っていますが、引用、参照等される場合は、試験公開中である点、ご留意ください。
日本側記録
米国側記録
日本側記録
{ "time": 1718247160653, "blocks": [ { "id": "1hR6NPn-5f", "type": "header", "data": { "text": "外務大臣、国務長官会談メモ(第一回)昭和三十年八月二十九日", "level": 2 } }, { "id": "CtErjsD2Me", "type": "paragraph", "data": { "text": "出典:外務省外交史料館所蔵、0611-2010-0791-08. H22-003 " } }, { "id": "aTmLyk8V5S", "type": "paragraph", "data": { "text": "" } }, { "id": "lOIO7yghB_", "type": "paragraph", "data": { "text": "まずダレス国務長官事務室において重光大臣より河野農林大臣及び岸幹事長を長官に紹介した後、長官の案内で会議室に入つた。" } }, { "id": "-SbDNTaqaf", "type": "paragraph", "data": { "text": "日本側 重光外務大臣、河野農林大臣、岸幹事長、井口大使、加瀬大使、島公使、松本官房副長官<br>米 側 ダレス国務長官、マーフィ次官代理、アリソン大使、シーボルト次官補代理、マカードル次官補" } }, { "id": "HpBPikbn42", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 会談を始めるに先立つて一言したい。<br> 私はかねてから直接貴長官にお目にかかる機会をもつことを楽しみにしていたので、ここにお目にかかるのは私の大きな喜びである。" } }, { "id": "N-2FokIm-G", "type": "paragraph", "data": { "text": " われわれは過去数カ月間協力して来たので、既に親しい友人であるかのように感じられる。" } }, { "id": "wYRDypeAOv", "type": "paragraph", "data": { "text": " わが国民は貴長官が今まで日本国民のためにつくされた所に負う所が多い事を充分に承知していることは、今更私から申すまでもない。貴長官はわれわれ両国民の間に今日存在する友好的親愛関係の主たる建設者である。この関係は東亜における平和と安定の主たる支柱の一つである。真に貴長官の透徹した識見と崇高なステーツマンシップがなかつたならば、戦後の暗黒時代において、内外にわたつて、日本が直面した重大な困難を乗り切る事は出来なかつたかもしれない。私はここに日本国民に代つて深甚の謝意を表する次第である。" } }, { "id": "GR-an-tMKr", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 重光大臣外各位を迎えることを喜ぶ。自分の特に興味を有する日本の友人に会うことは常に自分の喜びである。桑港条約は敗戦国に対して差別待遇をしなかつた点において歴史上独特の講和条約であるが自分は日本のポテンシヤリティに対しては高く評価しているものである。日米両国は時に意見の一致しないこともあるがより広い基礎における協力に較べればこれら不一致は些細なものと思う。今朝大統領と電話で話した際大統領がお目にかかれないことを残念に思うとともに会談が建設的な且より良好な了解を生み出すことを希望すると述べていたのでお伝えする。" } }, { "id": "OeTu-D4dgp", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 まず自分から国際情勢並びに日米関係について、自分の見解を申し述べたい。(左記口述書を朗読、英語原文は別紙(一)参照)" } }, { "id": "hpUKwoCaq9", "type": "paragraph", "data": { "text": "一、 ゼネバ会議の意義 原子爆弾をもつてする戦争がゼノバ四国会議によつて少なくとも差当りは阻止せられたことは人類のために歓ふべきことであるが、共産陣営と自由民主陣営との闘争は外交戦の形において今後も熾烈に継続される模様である。われ等はゼネバ会議の指令による来る十月の四大国の外相会議の経過を注視し、非常の関心をもつてその成果を期待するものである。" } }, { "id": "Up_SD8plzb", "type": "paragraph", "data": { "text": " ゼネバ会議は主として欧州を中心とする談し合いであつた。東洋殊に極東の問題は別に処理を要するものが多い、これ等の諸問題の処理については日本において重大なる関心を有つものであることを米国政府において認識せられんことを望む。私はダレス国務長官に日本政府がその政策樹立のため最も緊要とする米国の現在及び将来にわたる対極東就中対中共政策に関する資料の提供を望む。<br> 共産勢力はゼネバ会議をもつて平和攻勢の勝利なりとなし、今後もいわゆる平和政策によつて現状を維持しゆくにおいては終局の勝利は彼等の手中にありと感ずるもののようで、彼等は東西何れの地域においてもこの目的達成のために、国々の内外にわたる共産勢力を動員し活躍せしめつつある。近代武力において自己の劣勢を認めざるを得なかつた共産勢力は平和手段によつて形勢を有利に導かんとしつつあるものと認めらるる。この傾向は東亜方面においても顕著なものがある。" } }, { "id": "gIEVuiyKTq", "type": "paragraph", "data": { "text": "二、 日本における共産主義 " } }, { "id": "Rch-08d4NC", "type": "paragraph", "data": { "text": " (イ)増大する共産主義の脅威<br> 占領時代においていわゆる平和憲法が敷かれて治安に関する凡べての法律が悉く取り除かれ共産活動に対する国家的防禦方法が皆無となつて以来、日本は共産活動を有効に制止することが出来ぬ有様であつて、共産勢力は秘密裡に巧妙な手段をもつて政治、社会、文化等社会の各方面に潜入し、その実勢力は決して侮り難きものがある。<br> 彼等は陰に社会党と連繋し議会の内外にわたつて革命の素地を作ることに専念して今日に至つている。共産党は世界規模における平和攻勢によつて情勢が有利に転回し来れることを認識して今年六月地下運動より合法運動に転進し表面に出で決然政治の覇権を争わんとする有様である。彼等は社会党その他左翼勢力と統一戦線を形成し国会の内外における要点を確保することによつて革命の機を補捉せんとするもののごとくである。<br> 日本の共産勢力は議会においては数において殆んど皆無に均しきも、その実勢力に至つては侮り難く共産党自身可なりの自信を有するものと認められる。<br> 共産勢力は憲法の改正には必死の反対を行うであろう。実際今後左右両勢力闘争の場面において憲法再検討の論議が重要且つ決定的な論点となるは明かである。国際場裡において共産勢力の主眼とする所は、欧米におけると同様東亜においても米国勢力を駆逐することにあることも又明かである。共産勢力は社会党の支援を得て反米思想を誘致し、米国勢力を漸次日本及び東亜より駆逐せんと策するものである。この点は最近の国会における左翼政党の言論に見て極めて明りようである。彼等はかようにして日本における平和攻勢に対する国内的無防備の現状を利用してその究局の政治目的を達せんとしている。われわれは共産勢力がゼネバにおける四大国外相会議に引続きこの戦術をいよいよ推し進めんことを危惧するものである。<br> (ロ)政府の反共対策<br> 共産党、労農党及び議会勢力の三分の一を占むる社会党は共同して国家の再篇に関する基本的の法案特に憲法調査会法及び国防会議法に反対してその議会通過を阻止した。彼等は予算案そのものすら反対しており、また政府の提出した米国との協力関係の法案及び条約案例えば国家の死活に関する防衛関係法案は素より余剰農産物取極めの如きについても悉くこれに反対したのみならず機会あるごとに米国との協力政策を非難し、国際共産勢力が原動力たる動きは凡べてこれを支持するとともに中共と一層近密な関係に入るべきことを主張している。共産党の主張する統一戦線は日本の国際関係に関する限り既成の事実と云うべきである。共産左翼勢力はかくして日本が経済の面においても防衛の面においても独立を完成して将来に向つて再建することを阻止しもつて日本赤化の運動に没頭しているのである。<br> 日本国民は断じてこの傾向を許してはならぬ。日本の民主主義勢力は以上の形勢に直面して共産勢力抑制のため結束を新にして国家再建の正道を前進することを決意しているのである。反共勢力は日本が現におかれている自由陣営間の一員として米国と緊密なる協力の下に進む以外に途のないことを了解している。現日本政府が外交の基調を米国との協調に置いているのは正にその意味である。しかしながら不幸にして日本国民の少からざる部分が左翼運動のために甚だしく迷わされていることもまた事実である。政府としては国民を指導し迷夢を解き日本再建の途を拓き世界の自由諸国とともに民主自由思想の確立に貢献せんと堅く決意しておるのである。このため政府は保守勢力を結集しもつて日本再建の事業を完成せんことを期しているのである。それがため、政府の基本的政策として憲法の再検討自衛軍備の建設、自立経済の達成は一日も速かにその実現を期せねばならぬと考えているのである。" } }, { "id": "DU1rTofbsR", "type": "paragraph", "data": { "text": "三、 わが防衛努力 日米間の現在の共同防衛組織は当時の事情によつて日本が自衛のためにも武装兵力を有ち得ないという独立否認に等しい誤つた憲法解釈に立つて造られたために、全く不平等の関係に出来ている。即ち日本の防衛の責任は米軍の負担する処となりこれに要する経費の相当の部分を日本が分担することになつている。<br> 国防問題に関する日米不平等の位置は日本が自衛能力を欠くことから来る処であつて素より米国の責任ではない。しかしこの点が日本の米国への隷属関係であるといつて左翼勢力の反米思想鼓吹の根源をなしているのである。わが政府は日米の友好協力を阻害するこの不当なる事態を是非とも改めなければならないと考えている。<br> 現日本政府は現行憲法の下に自衛軍を建設し得るとの見解に立つているので最近国会に法案を提出して国防会議を起しまず基礎的な国防計画を樹立せんとしたが、社会党を先頭とする左翼勢力の阻止する所となつて遂に議会を通過するに至らなかつた。国防会議法案が憲法改正調査会法案とともに不成立に終わつたことは反共勢力の一大打撃であつた。しかし政府は八月初国会休会直後直に少数の関係閣僚より成る国防協議会の設定を行い直に国防計画の樹立を計つている。<br> 目下検討中の防衛計画は次ぎの如きものである。<br> 現状において日本が近代的陸軍、海軍及び空軍を含む均整のとれた兵力を一時に築くことは困難である。日本のなし得ることは国土防衛のための地上軍備でありこれをもつて直接侵略に対する deterrent force となさんとするものである。この地上軍は現在の国際一般情勢より判断して大体十八万の陸軍であると判定されている。日本政府は現に日本の有する十五万の地上軍に今後毎年一万の兵力を増加して三年間に十八万の完全なる装備を有つ地上軍を建設せんと企図しているのである。わが地上軍はその増強に応じて現に日本に駐屯している米地上軍と漸次交代を始めるものと考えているこの交代は三ヵ年間に完成出来る計算をしている。" } }, { "id": "kERol4f-FT", "type": "paragraph", "data": { "text": "四、日米の新関係 日米協力がわが外交方針の主要にして不動の方針であることは前述のとおりであるが、われわれは米国政府の同意の下に従来とは違う一層有効なる方法を選びこの方針で進む意向である。われわれはまずもつて国民が共産左翼勢力に乗ぜられぬように努力する必要がある。<br> 左翼勢力の最もその宣伝に利用しているのはいうまでもなく、日米共同防衛の点と日米の経済協力関係とである。彼らは、日本は米国の隷属国であつて完全なる独立国ではない、日本は米国の対ソ対中共の軍事基地となつておつて、日本人は米国の傭兵として使役されている、日本の経済は米国経済に対し従属的関係にあつて、独立性はなく、日本は米国の欲せざる国とは貿易をも禁ぜられている程である。これら左翼の主張は議会においても左翼議員により唱えられているが政府の国民啓蒙の努力にも拘らず今日の情勢においては宣伝としては極めて効果的であるのである。<br> われわれの画いている防衛に関する仕組は今日までの防衛方式を根本的に改めることにより日米間の新な関係を創始するものである。即ち安保条約及び行政協定の如きは相互主義を基礎とする対等者間の同盟に置き換えられなければならぬと思うのである。現行の条約及び協定を廃して米華又は米比もしくは米韓間のそれと同様の形式の相互防衛条約に改めらるべきである。斯様にして始めて日本の地位は防衛に関する限り米国と対等のものに高められ国民の納得を得て、日米関係を破壊せんとする左翼関係の画策を封ずることとなるのである。よつてこの点に関して米国政府の早急なる同意が期待さるる次第である。もしこの期待が充たさるる場合には毎年行わるる防衛分担金に関する困難にして摩擦多き日米間の交渉をなくすることが出来るのみならず、社会党等左翼勢力の反米宣伝の重大なる材料を取り除き得る次第にて日米協力関係の緊密化に資する所が少くないと思われる。" } }, { "id": "ftKgL1kDau", "type": "paragraph", "data": { "text": "五、戦犯問題及び領土問題 日米協力関係を緊密にするために双方の努力すべきことは防衛問題の外にも少くないと思われる。<br> 特に一例を挙げれば所謂戦犯の釈放問題である。終戦後十年を経てわれわれは日米協力の緊密化を国策の基調としてこれを国民に説いている際なお多数の戦犯なるものが存在し、全国に散在するその家族が日常の生活にも苦しみ抜いている状態は到底日本国民の納得し得ざる所である。日米協力を友好的な心からのものたらしめるためには直ちに戦犯なるものをなくして彼等に自由の生活を与うべきであると信ずるのである。<br> 又琉球諸島及び小笠原諸島に対する施政権が近い将来わが国に返還されることが、わが国民全体の強い念願であることは御承知のとおりであるが、米軍飛行場があると伝えられる硫黄島を除き、軍事施設のほとんどない小笠原諸島に対する施政権が返還されることは、日ソ交渉におけるわが国の領土返還要求に強力な支援を与えることとなると考える。この際の手始めの処置として尠くともわれわれのかねての要望に従つて小笠原諸島旧島民の帰島の実現方を希望する。" } }, { "id": "neP9xeCcS0", "type": "paragraph", "data": { "text": "六、自立経済 日本が再建され自主独立を完成するためには経済上の自立を得ることが必要であることはいうまでもない。年々約百万の人口増加率を有する敗戦後の日本が資源なき四つの島嶼に閉じ込められている以上、生活水準の低下なくしては到底経済生活を行うことは出来ない。ここに重大なる社会問題が伏在する。日本国民は共産破壊勢力と闘い国家の民主的再建を計るためには経済の安定が保たれねばならない。わが国のぜい弱な国家経済の安定を図るためにはインフレに対する凡ゆる手段を講じつつ生産を増大し外国貿易の伸張を図ることが不可欠の要件である。日本は経済上米国の好意に負う所が極めて多くこれに対して感謝の念を有するものであるが、更に日本は直接間接米国の経済上の支援に俟つものが多い。<br> 国家の経済再建を達成するためには国民の努力と犠牲とが必要であることはいうまでもない。日本国民はこの努力と犠牲とを惜むものではない。現政府もまた経済六ヵ年計画を立案中であつてその実現に全精力を傾注する決心でいる。<br> 自立経済の実現のために特に米国政府の注意を喚起したきことは外国貿易の方面である。日米貿易のバランス改善の問題が重要である。この点に関しては日米両国の直接の貿易のみならず莫大な潜在力を包蔵する東南亜細亜の経済開発に関する日米の協力の問題をも検討する必要があると思う。<br> 日本側の要請としては中共に対する貿易は今日は既に共産圏一般に対する貿易制限と同一程度に緩和するも民主自由陣営にとりて何等不利益でないと信ずるもので、米国政府の考慮を促す次第である。<br> 余剰農産物協定は確かに日米両国にとつて利益を齎すものである。日本は次年度も適当な条件でこれを受け入れたい所存である。その他米国民間資本の導入も日本経済の発展に資するものは歓迎する次第である。" } }, { "id": "T7mkr5GVca", "type": "paragraph", "data": { "text": "七、結び 日本は今日国家として重大なる局面に遭遇している次第であつて、特に左翼分子と保守分子、言い換えれば共産主義と民主主義の対決の時期に入つていると判断せられる。その対決の勝敗の如何によつては政局の将来も危険に陥ることなきを保しない。<br> われわれ反共主義者は全力を挙げて保守勢力の結集を計り政局の安定を実現し自由なる民主主義国家として日本を再建し東亜における安定勢力として太平洋方面の平和に貢献したき決意を有している。われわれは飽くまで米国との協力関係をなし得る限り緊密ならしめ、これをもつて国策の不動の基調とすべきことを認識しておる次第である。<br> 終りに私の米国訪問の使命は現政府の日本再建の責任達成のため日米両国政府の相互の理解を一層現実的ならしむるにある。更に亜細亜の安定保持に対する責任を果し日本国民の平和維持に対する悲願成就のため、日米両国国民の双互の親善友好関係を一層増進せしむる目的を有するものであることを確言するものである。" } }, { "id": "O_iNlhnHh7", "type": "paragraph", "data": { "text": "" } }, { "id": "Tae0nMq6zZ", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス ヂエネバ会議はソ連の唱道によつて開かれたと伝えられているがこれはソ連の従来の政策が成功した結果ではなくむしろ失敗の結果であり、ソ連のサイン・オブ・ウイークネスと見るべきである。ソ連は従来強硬政策によつて征服を試み大戦後東欧及び支那においてこの政策はある程度成功した。 しかしスターリンの死とともにこの政策の再検討が行われたが指導者間において意見の相異がありその対欧政策を樹立するに二年を要した。西独のナト加入問題がソ連の強硬政策にとつての最後の機会であり彼等はEDCを葬ることに成功したが自由諸国はその代りとして西欧同盟をつくることに成功した。右を最後としてソ連の外交政策に変化が現われ、その第一はオーストリ条約でありこの条約によつてソ連は一四年進駐したその軍隊を撤退することに始めて同意した。ついでソ連指導者ユーゴ―訪問となつたがその際彼等はチトーに対し eat a humble pie と述べ過去の非を謝した。この変化は極東にも影響を及ぼし中共が米国に対し北京に来ることをすすめ、そうすれば過去の非の償いをするであろうと誘いかけた。チトーがユーゴーと自由諸国との関係をルースにしたことは賢明でないと自分は考える。ソ連が第三に行つたことは軍縮の提案で、第四はアデナウワーのモスコウ招待である。日本に対する国交調整の呼びかけも同じ流れに沿つた措置と考えられる。<br> これ等の措置は強硬外交政策が失敗した結果取られたものであり、ソ連内部の困難もその原因をなしていると考えられる。国民の生活を犠牲にして国家の目的のためにあらゆるものを搾取する政策は国民にとつて耐え難い結果を生ずるのみで国民自身が自分のための生産を増し生活水準を上げ得るように必要な手段を与えるのでなければ決して成功しないということは自分の確信である。<br> 米国政府は現政権成立以来 long haul policy を執つて来た。ソ連は彼等の政策の欠点を認識し且近代兵器の生産競争を維持するための莫大な支出に耐え切れないことを悟つたものと考えられる。米国は現在の軍事力を維持するため年間四百億ドルの支出を行つているがこれをソ連の経済負担能力を基礎として計算すると千五百億ドル程度に相当しソ連として到底負担し得ない額となる。ソ連の軍縮提案において六十四万を削減すると述べているのはソ連自身の経済的必要から執らざるを得ない措置であり、ソ連のいう如くヂエネバ会議の結果右措置が可能になつたというのは虚構である。吾々自由諸国は斯の如きソ連の宣伝に迷わされてはならない。<br> ヂエネバ会議はソ連の弱みの結果でありその結果としての緊張緩和(レスパイト)は吾々としてはプロビジョナルベイシスにおいてのみ受入れているものである。ソ連は冷戦の終了を叫んでいるが彼等はそのために必要な代価の全部を払つていない。自分はヂエネバ会議は結末をつけるため計画されたものとは考えずむしろ事の始りと見るべきであろうと思う。会議の結果生れた気分が適当なプロセスにおいて具現されるならばー例えばドイツ統一あるいは東欧諸国における国民の自由意志の尊重等―誠に結構であるがそういう過程を辿らない限り緊張緩和は単なる表面的なものと考えざるを得ない。そのどちらであるかは現在開催中の国連軍縮委員会、ついで十月に予定されている外相会議で逐次明らかになつて来るであろう。<br> 以上ヨーロッパ問題についてお話したがこれは自分が主として関心を持つた問題であるからであり、つぎに何人にも関心の深い軍縮問題について自分の見解を述べたいと思う。ソ連の軍縮提案に対し米国としてはインスペクションとチエツキングがどの程度行われるかを明らかに承知するまでは右軍縮提案を考慮する用意はない。彼等のいうことをそのまま信頼するわけには行かない。米国政府の本問題に対する考え方はまずインスペクションとコントロールである。メイジヤーウオーを防止する最も有効な方法は報復能力である。現在の米国はこの能力を有している。即ち原子力の分野における優越・同盟諸国との取極め、及びソ連周辺の基地群がこれである。(ここでダレス長官は立つて自ら地図について米軍事基地の配置を説明した。)<br> 軍事専門家の全ては(チヤーチルを含む)過去十年間メイジヤーウオーを避け得たのはデタレントパワーにあることについて意見が一致した。<br> 現在ソ連の原子兵力はこの報復能力を破壊するだけの力はない。彼等がこの力を持ち得るに到つた時はデタレントは消滅する。従つて吾々としてはこの報復能力を常に増強し続けて行くことが必要である。原爆の個数自体は決定的な要素ではなく問題は奇襲によつて彼等が吾等の報復能力を破壊し得るや否やに係つている。吾々としては斯る奇襲能力を保持しようと試みることはペイしないことを彼等に悟らしめるべきである。米国の主張するインスペクションは細部にわたることを必要としない。彼等の能力の規模即ち吾々の報復能力を破壊するに足るだけの力を有しているか否かを知るに足るものであれば充分である。ソ連がこの意味のインスペクションを受諾するか否かは興味のあるところである。つぎに原子兵器について一言する。原子兵器は当分保有を続けることとなろう。その生産を増加しそれによつてデタレントパワーを増加することとなろう。欧州において衝突が起つても自己の軍事力が破壊されない点において米国は有利な地位にあると考える。<br> 原子力の利用を監督する方法を発見する可能性を原子核物理学が持つようになれば良いと思う。何故なれば平和的利用の原子力は何時でも軍事目的に替えられ得るからである。かかる有効なインスペクションが行われるようになれば軍縮も受諾し易くなる。何れにせよ、各国民が軍備競争を行うことはペイしないと悟るに到れば軍備のため莫大な金を支出することを止めるに至るであろう。<br> アジヤ関係については吾々は中共は承認すべからず且国連における代表権を認むべからざるものと考えている。何故ならば中共のやり方はこれに価しないと信ずるからである。それは単に彼等が共産主義者であるということからでなく、その意味においてはユーゴ―は共産国でありさらに米国はソ連・ポーランド、チエッコとも外交関係を結んでおり且彼等は国連のメムバーである。中共は武力により政権を獲得したものであり、国際関係においても武力使用を是認しているからである。かかる中共の考え方は米国の利益と相容れない。中国の革命はソ連の革命に比し一層規模の大きいものであるのみならず隣接諸国に対してまで武力侵攻を行つた。即ち一九五〇年朝鮮に侵入しついでホーチンミンを助けさらに台湾を脅かすに至り台湾の武力進攻を公言している。この態度はソ連に比し一層 fanatic なものと見るべきである。インドシナ動乱の際米国はもし東南アジア諸国が同調するならば干渉する用意があつた。しかるに英仏はこれを好まずまず休戦を実現した上で安全保障体制を造るべきことを主張した。戦争の危険が却つて良い結果を生ずる結果となりヂエネバの休戦会談後一九五二年九月マニラ協定が成立するに至つた。この協定は当該地区における平和と秩序に図り難い寄与をなすものと信ずる。しかし中共がその鋒先を台湾に向けるに至つたので米国は国民政府との間に相互安全保障条約を結んだ次第である。台湾地域につき必要の際武力を行使することの承認を求めたのに対し米国議会は上下両院を通じて約六百人の内反対者僅かに六名という圧倒的多数をもつて右承認を与えた。当時自分は戦争のチヤンスは五分五分と考えていたが議会が斯の如き全面的同意を与えたことは米国民の全面的な支持を示したものでありこの同意が得られず米国政府として立ち上り得ないという立場に置かれた場合は東南アジヤ地域における影響は憂慮すべきものがあると考えていた。<br> 右に引続きバンドン会議が開催されたが同会議の裏面において自由主義陣営の各国が中共に対し武力行使の危険を力説した事実のあることは御承知かも知れない。<br> バンドン会議はこれ等諸国の態度を明らかにした点において有益であつたと考えるし他のアジア諸国の影響が如何に大であるかを示す結果となつた。その結果周恩来は米国と会談の用意ある旨の声明を行つたが自分は台湾の将来を議する如何なる会談も国民政府の参加なくして行われるべきではないとの条件を付した上で周外相の提唱に応じた。米・中会談については色々の仲介者が現われたがその中のある者は必ずしも信頼を措き難く結局米国としては兎角直接会談を行うことが良いと考えてヂエネバにおける大使会談となつたものである。この会談の討議題目は抑留シビリアンの送還問題であり、中共側はこれ等シビリアンをこれ以上抑留して置くことの得失を考慮しているものと考える。(重光大臣より抑留者の数を問われたのに対しダレス長官は四十一名である。その他若干の米人がいるがこれは反逆者であり自分は彼等の帰国を欲しないと述べた。)自分は武力行使を徹底的に排撃するもので国内統一のためであつてもそれが国際紛争を惹起する可能性のある場合には武力による統一は試みらるべきではないと確信する。中共は朝鮮問題は朝鮮の国内問題であり又支那についてはケモイ・マツ及び台湾澎湖諸島は全て支那に属すると主張する。この主張に対しては先ずどちらの支那かとの言 議論があり得るがもつと大事な事は分割が続く限り朝鮮、支那、ドイツ、ベトナムの各国において一方は常に他方が自分の領域であると主張することが出来、これに武力行使を認める場合は収拾がつかなくなる。韓国においても李大統領は韓国軍の北鮮軍にたいする優越を信じ武力進攻を主張しているが自分はこれに絶対反対の旨を明らかにしている。中共の態度に変化のあることを誰もが希望しているがその方法について意見が分かれている。あるものは先ず中共を国連に入れれば行いを改めるであろうと考えるのに反し他の者は行いの改るのを見届けた上で国連代表権を認めるべきであると主張する。米国はこの後者を取るもので、国連は感化院ではない。国連は加盟各国が平和に寄与する能力を示す場所として作られたものであり国連憲章は誰にでも解放されたものではなく平和を愛好し憲章を履行し得るもののみに開かれている。前記中共に関する二つの議論の内第一のものは実は今となつては遅すぎるもので十年前憲章が討議された際に持ち出さるべきものであつた。特に安保理事会においては問題が重要で世界の平和維持の責任を持つている安保理事会においては理事国同志が責任を果し得ることについて相互の信頼が絶対に必要である。現在の中共を安保理事会に入れることは悪人を警察に入れる様なもので旨く行くはずがない。要するにアジヤにおける米国の政策は攻撃に対し戦い得る様に非共産主義諸国を助け且つ必要な経済援助を行い一方において中共の政策に変化をもたらす様出来る限りのインフルエンスを及ぼす点にある。バンドン会議は右政策の表われの一つであり、自由主義諸国が結束して固い立場を取つた実例である。<br> 米国はアジヤにおいて大なる利害関係を有しているが、その一員ではない。日本はアジヤの国であり、偉大なる一員であり而もgreat Asian powerである。従つて日本が現在より以上のインフルエンスを持ち米国が現在よりも少いインフルエンスを持つ様になることがノーマルな姿である。米国の希望するところは日本によつてかかるノーマルなバランスオブパワーが造られることにある。吾々はアジヤにおいて斯る役割を演じ様とする野心はない。西太平洋地域に関する限り日本により斯るインフルエンスが及ぼされるに到れば吾々は幸福であろう。貴大臣にはつきり申し上げ得ることは吾々は一刻たりともアジヤにおける米国の地位をaggrandizeする気持が無いと言う事である。米国は米国自身として強大であり日本の邪魔になることは絶対にないであろう。日本はその偉大なポテンシャリティによりずつと以前に影響を有する要素であるべきであつた。尤もこのインフルエンスは常に健全な方法で用いられなければならない事はもち論である。" } }, { "id": "86aTwOGFFa", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 吾々は今長官の述べられたアジアにおける日本の義務を完遂する決心である。" } }, { "id": "ftQJujvT3D", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス ソ連との平和交渉について御話を伺い得れば幸いである。" } }, { "id": "ZlYMzlUxqO", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 交渉は大して進捗していない。(日ソ交渉の資料配布日英両文夫々別紙(二)(三)参照)" } }, { "id": "B1n3ginN_z", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 領土問題が触れられているが桑港条約において千島、南樺太については極めて注意深く規定が設けられて居り、これ等の地域は条約に調印しない何れの国にも帰属することのない様に規定されている。" } }, { "id": "l846OhM4t2", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 これ等の地域は国際間の討議により帰属が決定されるべきものと考えている。" } }, { "id": "00qpBU1gsY", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 終戦直後一九四五年九月ロンドンにおいて開かれた第一回外相会議の際の内輪話であるが抑留者送還の問題が議題となつたがソ連は全然興味を示さなかつた。ポツダム宣言の軍隊送還の規定は日本を降伏させるために置かれたものであり、日本が降伏した現在あの規定に煩わされる必要はないというのが彼等の議論であつた。(条約草案日本案及ソ連案各一部づつダレス長官に手交)" } }, { "id": "Y4-FV0ILzU", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 自分の印象ではロンドン交渉において日本側は好くやつていると思う。ソ連との交渉についての自分の経験を申上げれば小さな譲歩をいくら与えてもソ連からは何も得ることは出来ない。オストリー条約がその適例で小さな譲歩は全然効果なく成否は一に係つて彼等自身のメイジヤーディシジヨンにある。本年一月四日ベルリンにおいて自分は懸案の点を全て譲るから明日調印するかと提案したところソ連代表はあわてて新しい条件を持ち出して来た。よつて自分も右提案を撤回した事実がある。" } }, { "id": "aZvr3_Pe0i", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 今度の日ソ交渉をどう思われるか。" } }, { "id": "JsBdjFVgt6", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス ソ連は真剣に条約締結を欲しているものと考える。従つて先方が譲歩するであろう。要は忍耐することであり譲歩することは決して得策ではない。東洋人独特の忍耐力をもつて臨めば今年或は来年には妥結するであろう。" } }, { "id": "tpGJxiQrQI", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 中心は領土問題である。" } }, { "id": "EAInyJpokG", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス ソ連は一旦獲得した領土は仲々譲らない。" } }, { "id": "vqniJ_dLEE", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 ソ連は軍艦の海峡通航を隣接諸国に限るべきことを提案している。これは、日本を超えて太平洋に直接そのインフルエンスを及ぼそうとする意図と考えられる。" } }, { "id": "n3hgTgKRAE", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス この際一つ御相談して置きたいのはコミユケに関することでコミユニケ草案を最後の瞬間まで手を触れずに置いたのでは間に合わなくなるから双方とも同僚の手によつて準備を進めることとしたい。 右に御同意ならば自分の方はマクラーキンを指名するから貴方においても誰か指名して頂きたい。" } }, { "id": "6L8Ua2Nb7B", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 しからば吾方においては島を指名する。" } }, { "id": "y3wMwnO76L", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 日本国民は国家再建のために固い決意をもつて臨み凡ゆる努力を行つている。自分は此大目的貫徹をより容易ならしめるために保守勢力すなわち建設的勢力が結集されることを望んでいる。この点について御質問があれば岸、河野両氏に御質ね願いたい。なお吾々は内外からの共産主義の脅威に対処するため非常な努力を払つている。内からの脅威に対しては経済六ヵ年計画及防衛計画の策定に努力中でありこれ等の計画の実現について貴長官の完全な御了解を得たいと思う。" } }, { "id": "p82PFa-8wT", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 保守勢力の結集は非常に必要な事と考える。自分の印象では左翼の方が右翼よりも高度のデイシプリンを持つている様に見える。しかし国家非常の際には小異を捨てて大同に就く決心が必要であると思う。尤も日本の内政に干渉する積りは全然ないことは勿論である。" } }, { "id": "8_6UIKjS6y", "type": "paragraph", "data": { "text": "岸 重光大臣のヂエネラルステートメントに述べられたことは全保守勢力共通の意見であるが残念ながら現状においてはその実現を見ることは不可能である。吾々は全力を尽して国民にその必要性を認めさせ、そこに盛られた見解の下に結集する様努力している。" } }, { "id": "0nWHSq-9y9", "type": "paragraph", "data": { "text": "ダレス 日本政府との接触について感じたことを申上げれば、これは現政府のことではなく数年前までの事と御承知願いたい、政権にある者はその地位に止ることを主眼とし必ずしも国民全体の要望を代表していない場合があつた様に思われた。若し日本が強力な政府を持つにいたればこの傾向は変つて来るものと信ずる。どうも今までの遣り方は深く考えた方針に基づかず場当りにあれこれと少しづつ要求を持ちかけて来た嫌いがあつた。真に強い政府が作られた場合には日本側としても米国との交渉がやり易いことを発見されるであろう。" } }, { "id": "Wmb_7NglQ0", "type": "paragraph", "data": { "text": "重光 吾々は御話しの様な強い政府を造ることに全力を上げる決心である。" } }, { "id": "g8Rd7P1Uga", "type": "paragraph", "data": { "text": "" } }, { "id": "_GDQ0n5Qon", "type": "paragraph", "data": { "text": "以上をもつて会談を終り以下当日の会談に関する新聞発表を審議し午後五時二十分散会した。" } } ], "version": "2.26.5" }
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