QWS ACADEMIA(東京大学)「個⼈の記録はいかにして社会の記憶となるのか?―博物館と新聞が向き合う「戦争の語り継ぎ」―」報告
【日時】
2026年1月9日 18:30-20:30
【場所】
SHIBUYA QWS CROSS PARK
【登壇者】
森原 彩⼦(毎⽇新聞社・社会部北海道グループ 記者)
⻑嶺 睦(舞鶴引揚記念館 学芸員)
今村 信隆(北海道⼤学⼤学院⽂学研究院 准教授)
【参加者】
学生・社会人
【本企画の趣旨と経緯】
本イベントは「市井の人々の記録や記憶をいかにして社会に開くか」をテーマに、戦争に関わる個人の記録や記憶を社会へ継承する意味や方法について議論を行った。った。研究者や関係者が参加し、講演、ディスカッション、資料提示などが行われた。
【井上まどか氏による図書の展示】
会場には井上まどか氏所蔵の戦争記憶に関わる図書が展示され、開演までの間に多数の参加者が図書を手に取って読んでいた。
【森原 彩子氏による講演:「『乗船名簿を歩いて』~北方領土元島民取材を通じた記憶の継承~」】
森原氏による北方領土元島民への取材を中心に、当時の記憶を記録することについて考察された。特に、函館港へ引き上げた元島民の住所や職業、行先が記録された「乗船名簿」に関わる取材に焦点が当てられた。引揚に関する資料の多くが保管されておらず、僅かな手がかりを基に元島民のルーツを探り当てたという取材過程が語られた。取材の結果、元島民や関係者の交流が生まれたこと、また各々が引揚や北方領土の暮らしについて想いを語ることへ繋がったと示された。こうした取材経験を踏まえて、当時の資料が失われつつあること、加えて島民の記憶が高齢化により失われつつあることから、速やかに記憶を記録として残さなければならないと説明した。また、元島民の方々の声を通じて生の感情に触れることで、当時の状況を自分も追体験したように感じたことが示された。こうした追体験に繋げる上で、当時の天気や匂いなど細かな情景を残すことが重要であると説明した。
【長嶺睦氏による講演:「ヒトとモノのコラボで継承する記憶」】
舞鶴引揚記念館の事例を基に、記憶の継承過程におけるヒトとモノのコラボレーションの重要性について論じられた。
モノの事例として、舞鶴引揚記念館の収蔵物が世界記念遺産に登録された過程に焦点があてられた。記念館の入館者と当時の体験者の減少を受け、記憶を次世代に継ぐためには何かしらアクションを起こさなければならないという想いが高まったことが、世界遺産登録を目指すきっかけであったと語られた。12000点ほどの収蔵品から記念遺産に推薦するものを選び出したこと、地域の方々による協力を得つつ登録への気運を醸成したことなど、世界遺産登録の過程について触れられた。また、引揚品の保存・修復方法について焦点が当たり、国外(ソ連)のプロダクトの保存事例は国内で僅かであり、適切な保存方法が模索されている最中だと語られた。
ヒトの事例では、人材の育成に焦点があてられた。舞鶴で実践されている「ふるさと学習」により、小学生が舞鶴の街とシベリア抑留の繋がりを知る機会が設けられていると説明した。また、こうした教育の機会がきっかけとなり、市内・市外の学生らが語り部に自ら志願し、記憶を語り継いでいる現状に触れた。
結論では、記憶を継ぐためにはモノの保存とヒトの育成をバランスよく行っていくことが重要であると示された。
【ディスカッションと質疑応答】
登壇者のディスカッションでは、「良識に訴える正しさ(コモンセンス)の重要性」や「未来に向けてどのような取り組みを行っていくべきか」といったテーマについて議論された。
また、参加者からは、現代における次世代への記憶の伝え方や、シベリア抑留を伝える現代的意義についての意見や質疑が活発に交わされた。
【来場者の声】
20代 男性
過去の記録、想い、経験を保存、継承し、空白となっている箇所を見つけ出す活動に対して非常に感銘を受けた。
30代 女性(非常勤講師)
個人の記憶が記録としても残されていない状況で、個人の記憶をどのように記録すればよいのか?と考えさせられた。
60代 女性(公務員)
戦後80年の企画を通じて、戦争への認識を新たにする機会を得ることができた。
60代 男性(会社員)
お二人のような活動により、戦争がどういうものであったかを後世に伝えることはとても大切だと感じた。