十数カ国・地域から約150人の政治家や研究者、国連関係者、NGO活動家らが集まった「第2回日本・中東戦略対話」は2日目の11月20日、ヨルダンの首都アンマンのホテル「インターコンチネンタル・アンマン」で、第5から第8までの4つのパネルとクロージング・セッションを開催し、閉幕した。
第5パネル「中東の新たな安全保障秩序とパワー再編」には、トルコの大統領首席顧問チャーリ・エルハン氏らを迎え、この地域が迎えつつある変動と国際秩序との関係について論議を展開した。特に、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルを攻撃して以降、紛争が中東全土に広がったこの2年間でイラン、シリア、イラク、トルコ、イスラエルといった国々が演じる役割の変化やパレスチナ問題の位置づけが焦点となった。エルハン顧問は「私たちはしばしば、木を見て森を見ずという状態に陥る。細部は時に、全体を見る上で障害となる。今、中東を含む世界のどの地域も、世界政治全体の動きを無視しては考えられない、今、私たちは脆弱で不透明で予想し難い時代を迎えつつある。あらゆる世界の構造が、かつてのルールに基づく国際秩序からかけ離れてしまった」と述べ、世界的な変化の中で中東の動きを位置づける重要性を強調した。
アラブ首長国連邦(UAE)にあるエミレーツ政策センターのエブデサム・ケトビ所長は「ライバルとなる国々がせめぎ合うことによって生まれる一種の安定によって、大きな紛争は避けられるのでないか」との見方を示した。
トルコの大統領首席顧問チャーリ・エルハン氏(右手前)ら第5パネルの参加者
第6パネルのテーマは「ガザ停戦:ガバナンス、安全保障と地域的関与」。イスラエルとハマスとの間で曲がりなりにも実現した停戦についての評価を巡り、議論が交わされた。辻田俊哉・大阪大学准教授は、イスラエルの世論調査結果などをもとに、図表を使いつつイスラエル国内の意識や状況を紹介。「国内には(停戦実現後も)依然として懸念が根強い」「停戦を実現させた要因について、イスラエルでは95%が『ネタニヤフ首相ではなくトランプ米大統領だ』と考えている」などと説明した。
プレゼンをする辻田准教授
第7パネルは、ヨルダン川西岸地域に焦点を当てた「西岸:パレスチナ暫定自治政府の改革とパレスチナ国家の将来」。パレスチナ自治政府の改革などについて論じた。日本からは阿部俊哉・JICA評価部部長が登壇し、JICAパレスチナ事務所長などとしてパレスチナ自治政府の政治家らと接した経験をもとに説明。「パレスチナ自治政府は移動の制限など多くの困難を抱えているが、その一因は、パレスチナとイスラエルとの不公平な経済関係を制度化したパリ議定書にある」と状況に理解を示すとともに、自治政府の改革の必要性も強調。「改革は、民主的なパレスチナに向けた重要な第一歩だ」と述べた。
第7パネルの阿部・JICA評価部部長(右手前)ら
第8パネルは「人道的課題と紛争後の復興」をテーマに、中東各地での人道援助や難民支援、紛争地の復興について、日本が果たせる役割と、その中で日本とヨルダンとの関係強化が意味するものを討議した。JICAヨルダン事務所長の森畑真吾氏は、教育や医療などの面でのJICAによるヨルダン支援について説明。「公立学校での子どもたちのメンタルヘルスに関する制度強化にこの4月から乗り出したところだ」とプロジェクトを紹介した。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長の清田明宏医師は、UNRWAに対するヨルダン政府の支援への感謝の意を表明。イスラエルによる禁止にもかかわらず活動が続いている様子を語る一方で、「ガザは、紛争後の復興の段階にはない。停戦が成立しても毎日人々が殺されており、紛争は全然終わっていないし、また以前の状態に戻る恐れもある」と警鐘を発した。
第8パネルの森畑事務所長(右手前)や清田医師(右から3人目)
クロージング・セッションは、会場中央のテーブルを円卓状に囲んで、一連の対話で浮き彫りになった視点を今後の連携に生かす方策を話し合った。浅利秀樹駐ヨルダン大使は「中東の安定は日本にとっての国益だ。その意味でヨルダンが担う役割は極めて重要だ」と述べた。ROLESの池内恵代表は「この対話の1つの目的は、中東でマルチのレベルでの議論がどう進められているかを、日本の同僚たちに示すことだった。その意味で成功だったといえる」と一連の対話を振り返った。
円卓状で開かれたクロージング・セッション
この第2回「日本・中東戦略対話」は、東京大学先端科学技術研究センター創発戦略研究オープンラボ(ROLES、池内恵代表)とレバント戦略研究センター(LSC: Levant Strategic Centre、ザイド・イヤーダート所長)の共催で開かれた。