はじめに
1941年、太平洋戦争開戦前夜に、日本を舞台として行われた国際的諜報事件であるゾルゲ事件が発覚する。このゾルゲ諜報団の形成過程においては、沖縄出身のアメリカ共産党員宮城与徳が1933年に日本に帰国し、ゾルゲ諜報団の日本国内の諜報活動において重要な一角をなした。本稿は、ゾルゲ事件の構成員である宮城与徳の日本派遣に関与した矢野勉と木元伝一に注目し、彼らに対する戦後FBIの捜査過程を分析対象とする。具体的には、アメリカ国立公文書館で新たに公開された矢野勉に関する史料(豊田令助ファイル)を主に参照し、矢野と木元伝一に対するFBIの捜査過程を明らかにすることで、これまでのゾルゲ事件研究が見落としてきた冷戦初期のFBIにとってのゾルゲ事件の意味を明らかにするものである。とりわけ、ゾルゲ事件をアメリカ国外のスパイ事件として理解する従来の枠組みに対し、本稿は新たな視点を提示する。すなわち、戦前から戦後にかけてアメリカ国内の治安・情報体制の中でゾルゲ事件がどのように再編され、冷戦初期の安全保障の文脈に位置づけられたかを検討する。
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